症状や病気について

耳が痛い:でも鼓膜は赤くない

鼓膜が赤ければ急性中耳炎ですが、赤くない。他にどんな病気を考えますか?

  • 急性中耳炎:鼓膜の発赤(Red Tympanic Membrane)
  • 外耳炎:耳介牽引痛・耳珠(Tragus)圧迫痛
  • 咽喉頭炎(Thraot):特に側面に近くなると耳が痛いと訴えられます
  • 扁桃(Tonsil):咽頭炎の中でも扁桃の痛みは耳にも放散します
  • 顎関節症(Temporo-Mandibular Joint):
    耳前部、TMJの圧痛、開口・閉口時にClick音
  • 甲状腺(Thyroid):亜急性甲状腺炎など。甲状腺の圧痛
  • 頸部筋緊張:胸鎖乳突筋付着部をつまむと痛む(Tenderness)

どうですか、Tで始まるものが多いでしょう?(かなりこじつけもありますが。)
残りは例外として覚えましょう。

  • 頸部リンパ節炎
  • 耳下腺炎

意外に有用、Weber検査

難聴の鑑別。伝音性か感音性か?
たいていは標準純音聴力検査とティンパノメトリーで鑑別可能ですが、軽度の障害の場合、検者が聴力検査を覚えたばか りで結果に信頼性が乏しい時など、迷う場合が時にあります。
耳閉感が主訴で聴力検査をしたものの聴力正常・テンパノA型だったりした場合や、ごく軽度の低 音障害型急性感音難聴だと思えるが、聴力検査でわずかに気導-骨導差がある場合(ギャップは誤差?)など。もう少し支持する検査所見が欲しい、そういう場 合にWeber検査は有用です。

Weber検査:

音叉を使った簡易聴力検査。音叉の柄の部分を額正中部か人中部にあててどちらから音が聞こえるかを調べる検査。
良聴耳側(健側)から聞こえたら、障害は感音性難聴。障害耳側(患側)から聞こえたら、障害は伝音性難聴。
ただし、いくつかの注意点はあります。

1)これはもともと健側は正常であるという前提での話
2)患者さんによっては、障害側から聞こえるはずがないと思い込んでいる場合には、患側から聞こえるとは答えない場合があります。

めまいを診たときの注意点:危険なめまい

患者さん向けQ&Aのバージョンアップ版です。
めまい外来をしていて、まず行わなければならないのは、そのめまいが命にかかわるかどうかの見極めです。
すぐにCTやMRIが撮影できる環境にあれば最高ですが、必ずしもそうはいかない場合もあります。
速やかに神経内科や脳神経外科などで診て貰うべきかどうかが大切です。

<問診>
複視、構音障害、四肢麻痺、頭痛、意識消失の有無の確認は欠かせません。

また、当然のことですが基礎疾患として糖尿病、高血圧、高脂血症など動脈硬化を増悪する因子を持っている人や不整脈がある人は脳血管障害の危険を念頭においておかなければなりません。

<理学的所見>
問診同様、脳神経の徴候がないかを見ておく必要があります。

複視の有無、顔面特に口周囲の知覚障害、顔面神経麻痺、軟口蓋麻痺、舌運動障害などの有無などのチェック。
小脳症状の有無(adiadokokinesis, Finger-Nose-Finger testなど)、四肢の運動麻痺、感覚麻痺の有無などもチェックします。
また、眼振のチェックはめまいを診察する上で最重要です。

<眼振>
めまいやふらつきなどの平衡障害では特徴的な眼の動き「眼振」が見られることが多く、診断に非常に役にたちます。
一般的に眼振とはゆっくり動く緩徐相と急に動く急速相とでなりたつリズミカルな一連の動きをしています。
急速相が向かう方を眼振の向きといい、障害部位の診断に重要です。

もし、正常の人で眼振のモデルを見てみたい場合は、2つの方法で見ることができます。

1)2人組みになって一人は観察者(検者)、一人が被検者になります。
被検者はどちら回りでもいいのでその場でぐるぐる回ります。検者は倒れない様にサポートします。
10回程回ったところで被検者は検者の前で急に止まります。止まった直後の被検者の目の動きを観察します。
この時の目の動きが主に内耳性のめまいで見られる眼振と類似した眼振です。

2)もう一つの方法は、電車や車に乗っている時に目の前を通り過ぎる電柱などを見ている人の目の動きを観察する方法です。
これも内耳性めまいの時に生じる眼振とよく似た眼振です。

ちなみに、1)は回転後眼振、2)は視運動性眼振と呼ばれめまいでいろいろな検査に応用されています。

中枢性のめまいを疑わせる眼振というのもいくつかあります。
1)縦に動く眼振:
下眼瞼向きでも、上眼瞼向きでも、縦向きの眼振が出たら中枢性と考えなければなりません。

2)方向交代性注視眼振:
右を見たときは右向きの、左を見たときは左向きの眼振が診認められます。

3)方向交代性上向き頭位眼振:
頭位眼振とは頭を特定の位置にした時、その頭位にしている間現れる眼振です。
たとえば、背臥位(仰向き)で首を右に向けた場合、左向きの眼振が、左を向いた時には右向きの眼振が出現する場合。眼振は常に天井に向かう様にでるので方向交代性上向き眼振と呼びます。
この場合、末梢性めまい(水平型BPPV:良性発作性頭位めまい症)として説明がつく場合もありますが、上向き眼振の場合は念のため中枢性病変を除外しておいた方がいいと思います。

眼振2)のモデルは酒に酔った時に見ることができます。友人が酔っ払っていたら一度眼だけで右や左を見させて眼振を確認してみるといいでしょう。

良性発作性頭位めまい症について

良性発作性頭位めまい症(Benign Paroxysmal Positional Vertigo:BPPV):
Positional Vertigoとありますが、頭位変換で生じるめまいですので、本来はPositioning Vertigoが正しいと思います。同じ頭位をとりつづけている間はずっとめまいが続くようでしたら、それはBPPVとは異なる病態と思われます。
BPPVの責任病巣は半規管といわれています。従来半規管膨大部の加速度センサー(クプラ)に結石(耳石が剥離浮遊したものとの説が有力)が付着し起こるとの1969年Shuknechtが提唱した説(クプラ結石症Cupulolithiasis)が長く支持されてきました。しかし、近年半規管の中を結石が移動するために起こるという説(半規管結石症Canalolithiasis)が提唱され、BPPV特有の眼振や症状をうまく説明できることや、移動する結石を想定した頭位変換による治療が効果的であることが確認され、両方の病態が一定の割合でみられると考えられています。

<診断>
まず、起こっているめまいが本当にBPPVかどうかという診断が大切です。医師の中には、「頭を動かした時にめまいがする」というだけでBPPVと診断する人がいますが、メニエール病などの他の内耳障害でも時期によっては頭を動かした時にめまい感が生じることはたくさんありますし、中枢性疾患でも頭位変換でめまいが生じる場合もあります(悪性頭位めまい)。BPPVと診断するにはきちんと頭位変換眼振検査を行い特有の眼振がでるかどうかを確認する必要があります。逆に特有の眼振が確認されれば、ほとんどの場合、即診断可能です。

BPPVの特有の眼振とは、
(1) ある特定の頭位変換を行った際に生じる。
(2) クプラ結石症(Canlolithiasis)の場合潜時がある。すなわち、特定の頭位をとった時に数秒のタイムラグの後、めまい・眼振が生じてくる。半規管結石症(Cupulolithiasis)の場合は潜時はごくわずかである。
(3) 眼振の出方は急速に大きくなり、その後徐々に減衰して終わる。
(4) 適応現象:同じ頭位変換を続けて行うと、眼振は急速に弱くなり、消失する。しばらく休憩して再び頭位変換を行うと再び最初と同様の眼振が出現する
といった特徴を有しています。

BPPVは後半規管型と水平半規管型とに分類されます。前半規管型は解剖学的なことからあまりみられません。後半規管型の眼振は回旋成分の多い眼振で、坐位から背臥位右下頭位をとった際(Dix-Hallpike頭位)に検者から見て反時計まわり、背臥位左下頭位をとった際には時計まわりの眼振がみられます。
水平半規管型の眼振は水平回旋混合性の一般的な内耳障害の時に見られるのと同じ様な眼振です。ただし、潜時、減衰、適応現象が見られるのは後半規管型と同様です。
最近はYouTubeなどで眼振がたくさんアップされていますので見て下さい。一度見れば忘れません。

<治療1>
15年くらい前までBPPVの治療は、他の内耳障害によるめまいと同様の治療、すなわちビタミンB12や鎮暈剤、あるいは脳や内耳への血流をよくする薬などに加え抗不安剤などを使った治療か、訓練療法のようなものが中心でした。
ところが、近年BPPVの原因が上の述べた様に三半規管の中を浮遊物が移動することによるという説が提唱されるに伴い、浮遊物を三半規管から排出させる治療法(浮遊耳石置換法:Epley法、Semont法、Lempert法)が発表され、日本でもその治療法の効果が確認されました。

<余談>
その昔、BPPVに対して浮遊耳石置換法が有効であるという報告を、私も比較的初期の頃に学会で報告した一人でした。最初の頃は、めまいを専門とする重鎮の先生方からも、「そんなものが本当に効くのか?」と多少疑いの目で見られることがありました。それほどShuknechtの提唱した説は強いものでした。
結局、多施設からその後も有効性が報告され、浮遊耳石置換法は市民権を得ていきました。
こうした経験から、どんなに有名な理論であっても、鵜呑みにせず、よりよい理論、よりよい診断法、よりよい治療法があれば追求していく姿勢が大切だと知りました。

と、殊勝なことを書きましたが、実はそう感じた私自身が、開業して以来ミイラ取りがミイラになるような状態に陥っていることに最近気づきました。
「BPPVと診断できたなら、浮遊耳石置換法をやればよい」
いつのまにか、それ以上のことを考えずに診療している自分がいました。
実際、典型的なBPPVは浮遊耳石置換法で結構治ります。しかし、BPPVなのか診断に躊躇する例もあります。一度治ってもすぐに繰り返す人もいます。浮遊耳石置換法は半規管結石症には有効ですが、クプラ結石症には効果的ではありません。いつの間にかそういう症例は、ちょっと難しいケースとして追求しないようになっていたのです。
自分が硬直化している間に、BPPVの治療法も少しずつ進歩していたのでした。

<治療2>
近年下記の様な治療法が開発されています。
・Rolling-over maneuver
頸椎症等整形外科的疾患があって浮遊耳石置換法が困難な場合、高齢者でうまく体位をとれないような場合、症状からはBPPVと推測されるが、頭位変換眼振検査でうまくチェックできなかった場合などに有効です。
頭を左右に何回も動かすことで、沈殿していた耳石が散っていき重力の影響を受けなくなって症状が消失すると考えられる。予防にもなると考えられています。

・Head tilt hopping法:
水平半規管型BPPVのCanalolithiasisに有効な場合がある。
頸を傾けて、「けんけん」をする要領で跳ぶことで、クプラに付着した結石をはずし、Cupulolithiasisの形に持って行き、治癒させる方法です。

・リハビリテーション:
めまい一般に言えるが、最近リハビリテーションが再評価されてきています。
Rolling-over maneuverもリハビリテーションの一種ともいえますが、その他にも、昔からあるBrandt-Daroff法なども有効です。