Let’s Study 栄養学5 Vitamin D vol.5

前回最後に引用しました論文:
Vitamin D: A Role Also in Long COVID-19?(ビタミンD: Long-COVID-19にも役割?)”
についてもう少し詳しく見てみたいと思います。
Abstractは前回の投稿をご覧下さい。

まずこの論文のIntroductionでは、
ビタミンD欠乏症の定義から始まります。

”ビタミンD欠乏症は、
血清中の25-ヒドロキシビタミンD(25OHD)濃度が
20ng/mL(50nmol/L)未満
と定義されている”そうです。

確かに、今までビタミンDの正常範囲や欠乏症の定義については
全く素通りしていました(^_^;)

論文を読み進めていきますと、
まずは総論的なビタミンD欠乏症についても書いてあります。

”ビタミンDには、骨やカルシウムの代謝以外にもいくつかの役割があることが、これらの対象における確かな証拠から示唆されている[15] 。ビタミンDの欠乏は、感染症、子癇前症、がん、う蝕および歯周炎、自己免疫疾患、心血管疾患(CVD)、慢性炎症、1型および2型糖尿病、神経障害を含む様々な疾患と関連しており、そうでなければ健康な人の呼吸器感染症による死亡リスクを有意に増加させる [2,8,16,17,18,19,20,21]。さらに、集中治療室や腎移植を受けた患者など、特定の患者群でビタミンDが欠乏すると、有害な転帰や死亡率が増加することが報告されている [22] 。([数字]は当論文における引用文献)”

そのあとにビタミンDの感染症に対する
作用機序についても触れています。

”ビタミンDには、微生物感染と死亡のリスクを低下させる多くのメカニズムがある。これらのメカニズムは、物理的バリア、自然細胞性免疫、適応免疫に分類することができる [25,26] 。ビタミンDは、強固な結合を維持し、カテリシジンやディフェンシンによってカバーされたウイルスを駆除し、自然免疫系による炎症性サイトカインの生成を抑制することで気道の防御を行い、ウイルスの複製率を低下させ、炎症性サイトカインの濃度を低下させることがよく知られている。そのため、ビタミンDは肺炎を引き起こすサイトカインストームのリスクを低下させる [10] 。ビタミンDの免疫調節作用は、粘膜抵抗性を高める抗ウイルスペプチドの分泌を通じて自然免疫を改善し、腫瘍壊死因子(TNF)-αとインターフェロン-γの両方に影響を与える [12] 。”

”先に述べたように、ビタミンDはカテリシジンやディフェンシンなどの抗菌ペプチドの誘導によって自然細胞性免疫を増強する。カテリシジンはグラム陽性およびグラム陰性細菌、ウイルス、真菌に対して直接的な抗菌活性を示す。カテリシジンとディフェンシンの誘導は、細胞内へのウイルスの侵入を阻害し、ウイルスの複製を抑制することができる [27]。自然免疫系は、COVID-19患者で観察されたように、ウイルスや細菌感染に反応して炎症性サイトカインと抗炎症性サイトカインの両方を生成する。ビタミンDはまた、TNF-αやインターフェロン-γなどの炎症性Th1サイトカインの産生を減少させる。さらに、炎症性サイトカインの産生を減少させ、抗炎症性サイトカインを産生するようにマクロファージを刺激する [26] 。”

まあ、ざっくりと
身体が作る抗菌物質( カテリシジンやディフェンシン )の誘導と、
炎症性サイトカインストームの制御、
この2つの作用がビタミンDの大きな作用の様です。

そのあと論文では、
SARS-CoV-2ウイルスに対するビタミンDの抗ウイルス作用、
もしくはビタミンD欠乏によるCOVID-19重症化の
メカニズムについて総括しています。

いろいろと書いてあるのですが、
論文中に表にしてまとめがありますので、
これを訳したものを拝借。

#ウイルスを不活性化・・・カテリシジンの誘導

#サイトカインストームのリスク軽減
・・・炎症性サイトカイン濃度を低下させ
・・・抗炎症性サイトカインの濃度を高める

#サイトカインストームのリスクを低減
・・・ T制御細胞の産生を誘導

#肺炎のリスクを減少させる
・・・内皮機能不全のリスクを減少させる

#宿主の代謝耐性を高める
・・・マトリックスメタロプロテアーゼ-9濃度を低下させる

#遊離SARS-CoV-2濃度の減少
・・・SARS-CoV-2と結合可能な可溶性ACE2濃度の増加
SARS-CoV-2と結合する

#抗ウイルス効果
・・・エフェクターCD8およびCD4 T細胞のバランス調整

#心筋炎リスクの低減
・・・カテコールアミン濃度の低減

#心筋炎のリスク低減
・・・RAS(レニン-アンギオテンシン)系阻害

#血管拡張および透過性、Hypotensinのリスクを低減
・・・RASを介したブラジキニンストームを抑制

#呼吸器感染症から守る
・・・急性免疫介在反応などのヒスタミンの影響から保護し
Th2サイトカインの増加およびTh1サイトカインの減少 といった
免疫介在性反応による肺障害の制御

#適応免疫の促進・・・T細胞増殖の制御

#神経保護・・・炎症と酸化ストレスの軽減

#他のウイルスによる増悪からの保護
・・・EBウイルス感染のリスクを減少させる

ビタミンDにこんなにもいろんな作用があるんですね。

こうした作用によって、
血中のビタミンD濃度がある程度高ければ、
COVID-19に罹りにくく(発症しにくく)、
発症しても重症化しにくいと考えられます。

次に、Long-COIVDとビタミンDについても
考察が加えられています。

Long-COIVDに対するビタミンDの効果については、
Long-COIVDの危険因子として、
いくつかのバイオマーカーで研究がなされた様ですが、
有意な違いでなかった様です。

ただ、これはLong-COIVDの原因が
多岐にわたるからかもしれません。

以前、当院のブログでもある論文を紹介ました。
AIによるSARS-CoV-2感染後遺症(PASC)のパターン化1

何となくLong-COIVDと言うと、
倦怠感やbrainfog(脳霧)と言った症状の方を連想しがちですが、
実際にはCOVID-19の後遺症にはいくつかのパターンがあります。
それは、ダメージを受ける器官によって症状も異なります。
肺の障害で呼吸器症状が中心の人もいれば、
循環系の微小血栓による、心臓や脳の機能不全の人、
脳の慢性的な炎症による場合など。

今後、どのタイプで有効なのかを
より詳しく分析した結果を期待します。

まあ、それでも、まずは
COVID-19に罹患しないにこしたことはなく、
罹っても軽くてすませる方がよく、
(女性に多いLong-COIVDは
軽くかかった人に多いという話も聞きますが)
そういう意味では、
ビタミンDは予防的に意味があるのではないでしょうか?

これはCOVID-19についての記事ですが、
ビタミンDの自然免疫的な感染症予防効果は
ウイルス性疾患一般にもいえるのではないかと思います。

最近風邪を引きやすいという人は
是非ビタミンDを意識してみてください。
・・・と言っても、
サプリでガンガン摂取というのはちょっと違います。
ビタミンDは過剰摂取にも気をつける必要があります。

そのたりのことは、また近いうちに書ければと思います。