前回からの続きです。
ワクチンを繰り返しうつと抗IgG抗体は、
IgG4抗体の割合が増えてくる。
この現象が身体にどう影響を与えるのか?
前回紹介した論文の中で、
ブラジルからの報告の引用が目に引きます。
”a Brazilian study during the early phase of the pandemic correlated an early onset and high levels of anti-spike IgG4 antibodies with a more severe coronavirus disease 2019 (COVID-19) progression after SARS-CoV-2 infection, which might indicate a less effective antibody response(抗スパイクIgG4抗体の早期発現と高レベルは、SARS-CoV-2感染後のCOVID-19の進行がより重症であることと相関し、抗体反応があまり有効ではないことを示していると思われた)”
その論文がこれ:
”Assessment of avidity related to IgG subclasses in SARS-CoV-2 Brazilian infected patients”
Scientific Reports volume 11, Article number: 17642 (2021)
DOI:https://doi.org/10.1038/s41598-021-95045-z
アブストラクトを載せておきます。
”Abstract
SARS-CoV-2 is considered a global emergency, resulting in an exacerbated crisis in the health public in the world. Although there are advances in vaccine development, it is still limited for many countries. On the other hand, an immunological response that mediates protective immunity or indicates that predict disease outcome in SARS-CoV-2 infection remains undefined. This work aimed to assess the antibody levels, avidity, and subclasses of IgG to RBD protein, in symptomatic patients with severe and mild forms of COVID-19 in Brazil using an adapted in-house RBD-IgG ELISA. The RBD IgG-ELISA showed 100% of specificity and 94.3% of sensibility on detecting antibodies in the sera of hospitalized patients. Patients who presented severe COVID-19 had higher anti-RBD IgG levels compared to patients with mild disease. Additionally, most patients analyzed displayed low antibody avidity, with 64.4% of the samples of patients who recovered from the disease and 84.6% of those who died in this avidity range. Our data also reveals an increase of IgG1 and IgG3 levels since the 8th day after symptoms onset, while IgG4 levels maintained less detectable during the study period. Surprisingly, patients who died during 8?14 and 15?21 days also showed higher anti-RBD IgG4 levels in comparison with the recovered (P?<?0.05), suggesting that some life-threatening patients can elicit IgG4 to RBD antibody response in the first weeks of symptoms onset. Our findings constitute the effort to clarify IgG antibodies’ kinetics, avidity, and subclasses against SARS-CoV-2 RBD in symptomatic patients with COVID-19 in Brazil, highlighting the importance of IgG antibody avidity in association with IgG4 detection as tool laboratory in the follow-up of hospitalized patients with more significant potential for life-threatening..
要旨
SARS-CoV-2は世界的な緊急事態とされ、その結果、世界の保健衛生上の危機が深刻化した。ワクチン開発は進んでいるが、多くの国ではまだ限定的である。一方、SARS-CoV-2感染における防御免疫を媒介する免疫反応や病態を予測する指標は、未だ明らかにされていない。本研究では、ブラジルの重症および軽症のCOVID-19患者において、RBDタンパク質に対する抗体レベル、アビディティ、およびIgGのサブクラスを、自社開発のRBD-IgG ELISAを用いて評価することを目的としました。RBD IgG-ELISAは、入院患者の血清中の抗体を検出する際に100%の特異性と94.3%の感度を示しました。重症のCOVID-19では、軽症の患者に比べ、抗RBD IgG値が高かった。さらに、解析されたほとんどの患者が低い抗体活性を示し、病気から回復した患者のサンプルの64.4%、死亡した患者の84.6%がこの活性範囲にありました。また、IgG1とIgG3は発症から8日目以降に増加し、IgG4は調査期間中、検出されにくい状態を維持していた。驚くべきことに、8-14日および15-21日に死亡した患者は、回復した患者と比較して抗RBD IgG4レベルが高かった(P < 0.05)。このことは、生命を脅かす患者の一部は、症状発現後最初の数週間でRBDに対するIgG4抗体反応を引き起こすことができることを示唆している。今回の結果は、ブラジルのCOVID-19有病者におけるSARS-CoV-2 RBDに対するIgG抗体の動態、活性、およびサブクラスを明らかにする試みであり、生命を脅かす可能性がより高い入院患者のフォローアップにおけるツールラボとして、IgG4検出と関連したIgG抗体活性の重要性を強調している。”(DeepL簡易版翻訳)
この論文と先の論文を強引に合わせて読むと、
”ワクチンを打つほどIgG4が増加し、重症化しやすくなる”
と読めるかもしれませんが、
これはミスリーディングでしょうか?
まあ、少ない論文だけで決めつけるのはいけませんが、
もともと基礎疾患等なく重症化する可能性の低い人は、
さらなるワクチン接種については、
もう少し情報を集めてよく考えてみる方がよいかもしれません。
と、このように、何となくIgG4は悪者の様なイメージですが、
実際はどうなんでしょう?
最初の論文を踏まえて、Science Immunologyという雑誌に
次の様な意見が載せられています。
>Is it bad, is it good, or is IgG4 just misunderstood
(悪いのか、良いのか、IgG4は誤解されているだけなのか?)
DOI: 10.1126/sciimmunol.adg7327
先ほど上に書きましたが、
抗原を中和したIgG4と抗原の複合体は、
普通なら病原体が死ぬように炎症反応が進むのですが、
IGG4とくっついた複合体は強い炎症を起こすことができません。
この論文では、IgG4は炎症を抑えるために進化し、
本質的に抗原の受け皿として機能しているのではないかと考えられている、
書かれています。
強い炎症が起こらないというのは、
身体のダメージという点では利点なのかもしれません。
実際、養蜂家などは就業が続くとハチ毒に対するIgG4抗体が増えるそうで、
これはIgE抗体がIgG4抗体にスイッチすることでアナフィラキシーを
引き起こしにくくなると思われます。
同様に、アレルギー性鼻炎に対する舌下免疫療法の作用機序も、
スギ花粉やダニ抗原に対してI型アレルギーを引き起こすIgE抗体に拮抗する
IgG4抗体を増やすのが目的です。
(他に粘膜免疫のIgA抗体も増やします)
ただ、これらはIgEからIgG4へのスイッチです。
mRNAワクチンは主にIgG1からIgG4へのスイッチですので、
単純に比較はできません。
SARS-CoV-2ウイルスが体内に侵入してきた時に、
IgG4抗体がとりついて中和するので、
ウイルスは宿主の細胞に侵入できないので増殖できません。
めでたしめでたし・・・
にも思えますが、その中和されたウイルスと抗体の複合体は
その後どうなるのでしょうか?
IgG1で中和されたものは、
その後補体がくっついて病原体に穴があいて壊れてしまい、
貪食細胞が無毒化した病原体を食べることで後始末が終わります。
IgG4の場合、中和はなされますが後始末が働かないのではないかと思います。
そうすると、抗原抗体複合体はずっとその場所に留まるか、
血液中を回って細い血管にひかかったりするのかもしれません。
ちょっとそのあたりのことは詳しくないので、
少しずつ調べてみようと思います。