前々回からの続きです。
実験医学 Vol.37 No.12 2019 増刊号 ミトコンドリアと疾患・老化,羊土社
を読んでいます。
ミトコンドリアと抗ウイルス自然免疫シグナルp.145:
自然免疫
さまざまな病原体から身を守る、初期対応を担う重要な生体防御システム。
一般的に、病原体センサーとなるToll様受容体(TLR)を介した
免疫応答が知られている。
近年、ミトコンドリアも細胞内における
新たな免疫系を活性化することが明らかになった。
ミトコンドリアがRNAウイルスに対する自然免疫にも
密接にかかわっていることが明らかになってきた。
抗RNAウイルス自然免疫
1.TLR経路
二重鎖RNA(dsRNA)が主にエンドソーム内に発現している
TLR-3核酸センサーにより初期認識される
⇒I型インターフェロン(INF-α、INF-β)や炎症性サイトカイン(IL-6)を産生誘導
2.RIG-1経路
RIG-1(retinotic acid-inducible gene 1)と呼ばれる
別の核酸センサーの働きで自然免疫が活性化
このRIG-1経路のプラットフォームがミトコンドリア
ミトコンドリアによる慢性炎症制御p.152:
炎症は生体防御のために必須であるが、
慢性化するとさまざまな疾患や老化にかかわってくるため、
より正確に制御される必要がある。
最近の研究から、その正確性の維持にミトコンドリアの機能や
品質管理機構が深く関わっていることが示されている。
炎症の引き金となる刺激に直接応答したマクロファージや樹状細胞などが、
IL-1βなどの炎症性サイトカインを放出する。
本来このIL-1βの産生は一過性であるべきなのだが、何らかの障害で、
持続的に生産されてしまうと炎症が必要以上に遷延し、慢性炎症に至る。
その際、特に不顕性の慢性炎症が問題で、軽微であっても長期に及ぶ炎症は、
生体の恒常性を崩すのに十分なダメージを与え、疾患の発症をもたらす。
IL-1βやそれに類似の構造を持つIL-18の産生には、
インフラマソームと呼ばれる細胞内タンパク質複合体が重要な役割を担う。
その中でもNLRP3インフラマソームは、病原性微生物やそれに由来する
PAMPs(Pathogen-associated molecular patterns)や
シリカ、アスベスト、低浸透圧など外来性因子やATPや尿酸の結晶などの
内因性因子に至る極めて多様な
DAMPs(damege-associated molecular patterns)によって刺激される。
ミトコンドリアは単に受動的に機能を失いながら
NLRP3インフラマソームの活性化に寄与するだけでなく、
積極的にその活性化にかかわっている可能性が高い。
mtDNAによるNLRP3インフラマソームの活性化においては、
mtDNAは細胞内におけるDAMPsとして機能している。
このミトコンドリア由来のDAMPsをいかに制御するかが
炎症を制御し、慢性炎症を防ぐ有望な方策となる。
<第3章>ミトコンドリア疾患の診断技術と治療戦略
画像診断として電子顕微鏡の発展もある様です(p.160-173)
今回注目は、”ミトコンドリア病のバイオマーカーGDF15”(p.174)。
ミトコンドリア病では、
発症年齢、遺伝形式、症状・罹患臓器・罹患組織の
あらゆる組み合わせをとりえることを認識することが重要。
特にエネルギー依存的な臓器組織の症状:
(中枢神経系、心筋、骨格筋、内分泌、聴覚など)が出やすくなる。
従来、乳酸・ピルビン酸がミトコンドリア病の診断マーカーとして用いられてきたが、
感度も特異度も低く、重症度との相関もなかった。
これに対して、
GDF15(growth differetiation factor 15)というバイオマーカーが発見された。
これは感度・特異度98%を有する診断、重症度、薬効評価に有用。
長々と『 実験医学 増刊号 ミトコンドリアと疾患・老化 』を読んできました。
自分の知らないミトコンドリアの働きがたくさん書いてありました。
すぐさま今の診療に生かせる知識ではありませんが、
病気の背景にミトコンドリアの不調を考えておくことが必要な場合も
結構ありそうです。
と、そんなことを考えていたら、
実験医学の羊土社さん、
ミトコンドリアに関するさらに新しい特集号を発刊されてきました。
実験医学 Vol.41 No.5 2023 増刊号 ミトコンドリア 疾患治療の新時代
早速、取り寄せていました。
これからゆっくり読んでみるつもりです。