先日の平畑先生の講義の中で、BCAAが効く場合があるという話がありました。
今回、このBCAAについてちょっと勉強してみました。と言うのも・・・
ちょうど実験医学という雑誌の9月号で特集が組まれていたのでした。
『実験医学 Vol.40 No.14 2022 9月号 特集:代謝調節の立役者:分岐鎖アミノ酸』
COVID-19との関連について書かれたものではありませんが、
BCAAが一時的ではあるにせよ、なぜ効くのか?
このあたりにLong-COIVD治療のヒントがあるのかもしれません。
まずは、京都大学医生物学研究所 伊藤貴浩先生の概論から。
BCAA(branched-chain amino acid):分岐鎖アミノ酸
分岐した脂肪族炭化水素鎖を有するアミノ酸の総体。
狭義的には、バリン、ロイシン、イソロイシンの3種をさす。
タンパク質を構成するアミノ酸成分として重要であるばかりでなく
血中や細胞内に遊離アミノ酸として存在し、さまざまな機能を発揮する
BCAAの代謝は大雑把に言うと次のような流れ:
分岐鎖アミノ酸BCAA⇒分岐鎖ケト酸BCKA⇒分岐鎖アシルCoA⇒直鎖炭化水素鎖
ただ、3つのアミノ酸の代謝は、微妙に異なっています。
・ロイシン⇒⇒⇒アセチルCoA に・・・「ケト源性」アミノ酸
・イソロイシン⇒⇒⇒アセチルCoAとサクシニルCoA・・・「混合型」
・バリン⇒⇒⇒サクシニルCoA⇒クエン酸回路or糖新生(⇒ブドウ糖)・・・バリンは「糖源性」アミノ酸
BCAA⇒BCKAの部分は可逆性:
BCAA⇒BCAK:異化、BCAK⇒BCAA:同化。
この同化反応が一部のがんにおいて重要な役割をはたすことが
最近わかってきたのだそうです。
分岐鎖アミノ酸は、
1)タンパク質の部品
2)エネルギー産生の基質
3)シグナル分子
などとして働きます。その結果、
・骨格筋の機能維持・・・サルコペニアに関連
・骨恒常性維持・・・ロコモティブシンドロームに関連
・褐色脂肪細胞における熱産生と肥満に関連
その他、がん幹細胞に関連していたり、
乳がんの増殖と転移に関連していたりもするそうです。
次に、東京大学先端科学技術研究センター 米代武司先生、
ハーバード大学 梶村真吾先生による、
”脂肪組織における分岐鎖アミノ酸代謝と肥満”の稿も見てみましょう。
肥満や関連代謝性疾患にはBCAAの代謝異常が密接に関与しているそうです。
褐色脂肪細胞(Brown adipose tissue; BAT):
代謝的熱産生の場・・・寒冷刺激で熱産生増加。
BCAAを選択的に代謝分解することで、全身性エネルギー代謝と耐糖能を制御。
BCAA代謝にはミトコンドリアBCAAトランスポーター(MBC)が不可欠。
MBCを介したBCAA分解は、
視床下部-プロスタグランジンE2を介した発熱応答にも寄与する。
褐色脂肪細胞BATは寒冷誘導熱産生だけでなく、
感染や心理ストレスに応じた発熱にも寄与する。
感染による発熱は、病原体の増殖抑制や免疫細胞の活性化に働く。
心理ストレスによる発熱は、
骨格筋などの機能を高めることで脅威からの逃避または闘争を有利にする。
うつ患者や慢性ストレス症候群患者など、
心理ストレスを強く受けている者では血中BCAA濃度が低下。
⇒これは原因なのか、結果なのか?どうなんでしょうね。
Long-COIVDの患者さんの多くは、うつ傾向があったり、
心理的ストレスも大きいでしょうから、血中BCAAは低下していそうです。
だとすれば、減っているBCAAを補えば、
症状が一時的にでも改善するのはなんとなくわかるような気もします。
発熱応答には、体温調節中枢である視床下部背内側核や
延髄縫線核を介した神経回路が制御しているそうで、
この回路はプロスタグランジンE2を引き金として活性化し、
交感神経を介して最終的にBAT熱産生を活性化するのだとか。
まれに微熱が続くけれど、いろいろ検査しても異常が見つからない
という話を聞くことがあります。
これは何となくストレスが関連していそうだと思っているのですが、
この交感神経-褐色脂肪細胞関連の熱産生なのかもしれません。
もう1稿、”骨格筋の肥大・萎縮と運動におけるBCAA代謝”
も見ておきましょうj。
著者は名古屋大学大学院生命農学研究科 北浦靖之先生。
BCAAは骨格筋タンパク質の構成成分としてのみならず、
そのタンパク質の合成を促進し、分解を抑制。
絶食時や運動時にはBCAAは代謝され、エネルギー源として利用されます。
ミトコンドリアにおけるてBCAAをBCKAに変換する際、
BCATm(BCAA aminotransferase(mitochondria))と呼ばれる酵素が関与します。
(おそらく先に出てきた、MBCと同じものではないかと思います)
このBCATmの欠損マウスでは持久運動能力が著しく低下することから、
BCAA代謝によるエネルギー産生が運動持久力の増大に必要だと。
Long-COIVDの患者さんの倦怠感は、ひょっとすると
このBCAA代謝による運動持久力と関連があるのかもしれませんね。
BCAA代謝系から生理機能を有する因子がいくつか生成されている。
バリン代謝系から生成されるHIBA(β-hydroxyisobutyric acid)は、
血管内皮および骨格筋に作用し、脂肪酸の取り込みを促進し、
インスリン抵抗性が増加する。つまり血糖値が上昇しやすい。
これは、絶食時や運動時にエネルギー源として利用するため。
同じく、バリン代謝系から生成されるBAIBA(β-aminoisobutyric acid)は
肝臓での脂肪酸代謝の活性化や、
白色脂肪細胞組織のベージュ化に関与するとともに
心血管疾患の危険因子と逆相関することもわかってきました。
※白色細胞のベージュ化
動物が寒冷に長期間さらされると、
白色脂肪組織中に誘導型の褐色脂肪細胞が出現する現象。
個体あたりの熱産生能を増加させる寒冷適応反応の一つ。
さらに、骨格筋におけるインシュリン抵抗性と炎症の改善作用
骨細胞のミトコンドリアでの活性酸素を低下させ、
アポトーシスから保護し、骨量の減少防ぐ。
上に出てきたBranched-chain amino acid aminotransferase (BCAT)ですが,
活性化するには補因子としてピリドキサール-5′-リン酸(PLP)が
必要なんだそうです。
このピリドキサール-5′-リン酸(PLP)ってビタミンB6の活性型の様です。
とすれば、BCAAを摂取するときには
ビタミンB6も一緒に摂る方がよいのかもしれません。
ついでに、平畑先生が最後にあげてくださった
試してみてもいいかもというものの中の、
アミノレブリン酸(5-ALA)についても調べてみました。
この物質も僕はほとんど知らなかったのですが、ネットで検索してみました。
>SBI Pharmaさん:5-ALAとは
アミノレブリン酸(5-ALA)は、
赤血球のヘモグロビンの中心、ヘムの構成要素なんですね。
そして、この5-ALAがヘムに合成される場がミトコンドリアの様です。
どうも、ミトコンドリアがLong-COIVDのキーの様な気がしてきました。
※上記のようなことを書きましたが、あくまで僕の一つの思いつきです。
Long-COIVDについては、以前にもブログで書きましたが、
>Long-COVID(新型コロナ感染症後遺症)
原因・メカニズムはいろいろあるものと思われますので、
あくまで一つの可能性として考えてみました。
BCAAを飲めば必ず良くなるというわけではありません。
平畑先生も講義でおっしゃってましたが、
BCAAで動ける様になる人がいらっしゃるそうですが、
そこで動きすぎると逆にクラッシュを起こしてしまう場合があるそうなので
ご注意ください。