最近、投稿が滞っています。
お話したい話、紹介したい論文などたくさんあるのですが、
どうもうまくまとまりません。
とび太くん探しで時間稼ぎをしてみましたがそれも限界。
とりあえず、まとまりがなくてもいいから先に進むことにしましょう。
最近、新型コロナ感染症(COVID-19)に罹ったあとの不調を訴えて
来院される方が増えています。
COVID-19後の様々な不調を持った状態は、
一般にLong-COVIDと呼ばれています。
ちょうどLong-COVIDの病態についての論文があったので紹介します。
”The neurobiology of long COVID(Long-COVIDの神経生物学)”
出典はNeuron VOLUME 110, ISSUE 21, P3484-3496, NOVEMBER 02, 2022
オープンアクセスですので閲覧できます。
Summary
”Persistent neurological and neuropsychiatric symptoms affect a substantial fraction of people after COVID-19 and represent a major component of the post-acute COVID-19 syndrome, also known as long COVID. Here, we review what is understood about the pathobiology of post-acute COVID-19 impact on the CNS and discuss possible neurobiological underpinnings of the cognitive symptoms affecting COVID-19 survivors. We propose the chief mechanisms that may contribute to this emerging neurological health crisis.”
要旨(PCでの訳)
神経学的および精神神経学的症状の持続は、COVID-19後のかなりの割合の人々に影響を与え、長期COVIDとしても知られる急性COVID-19後症候群の主要な構成要素をなしている。ここでは、COVID-19の急性期後のCNS(中枢神経系)への影響の病理生物学について理解されていることを検討し、COVID-19罹患者に見られる認知症状の神経生物学的裏付けの可能性について論じる。また、この新たな神経学的健康危機の主な原因として考えられるメカニズムを提案する。
ここではLong-COVIDの症状の中で特に多い精神神経症状が
どのようにして生じるのか、
現在考えられているメカニズムについて述べられています。
COVID-19は、(少なくとも)6つの主要な方法で
中枢神経系に影響を与える可能性があるそうです。
第1は、呼吸器系におけるSARS-CoV-2に対する免疫反応が
神経炎症を引き起こす可能性。
呼吸器系の粘膜でウイルスが感染すると、
近くの免疫細胞が反応し応援を呼びます。
これがサイトカイン、ケモカインと呼ばれるもので、
このサイトカインが脳に到達すると、
脳内の免疫細胞や常駐ミクログリアが反応して脳の機能低下が生じるわけです。
第2は、ウイルス自体が直接脳に侵入し、脳で炎症を起こす可能性。
肺やのどに感染したウイルスが血中を回って脳に入り込む可能性は少ないですが、
鼻の嗅覚に関連する神経を通じて直接脳に入り込む場合が
あると考えられています。
第3は、自己免疫疾患の誘発。
ウイルスの表面のスパイクタンパクをはじめとする抗原を
免疫細胞が認識したあと、身体の中の正常の細胞の中に
雰囲気の似た細胞があると間違えて攻撃をしてしまう訳です。
第4は、エプスタイン・バール・ウイルス(EBウイルス)のような
潜伏ヘルペスウイルス属の再活性化が神経病理学を誘発する可能性。
水痘帯状疱疹ヘルペスや単純ヘルペスなども含まれます。
最近、帯状疱疹が増えているという話も聞きますし、実感もあります。
第5は、脳血管に血栓が生じ、さらなる神経炎症や
神経細胞の虚血を引き起こす可能性。
もともと、SARS-Cov2ウイルスは血栓症を起こしやすいとされますので、
この可能性も十分考えておく必要があります。
この場合の血栓とは大きな血管の脳梗塞だけでなく
微小な血管でごく軽度の血流の悪さなどもあるかもしれません。
第6は、重症のCOVID-19になっていた場合、
つまり多臓器障害、特に肺の損傷が著しい場合などで、
低酸素血症、低血圧、代謝障害などをひきおこし、
神経細胞に影響を与える可能性です。
結論の部分には加えて、中枢神経系以外のどこかの組織(おそらく腸管)に
リザーバーがあって、感染が供給される場合や、
血中を循環するスパイクタンパクの持続なども挙げられています。
これらのメカニズムは1つだけが原因とは限らず、
いくつかの組み合わせの可能性もあると考えられます。
この論文では、それぞれのケースについてもう少し詳しく説明しています。
興味をもたれた方は読んでみてください。
そして、まとめのところには、
こうしたメカニズムをもとに将来的に開発されるであろう
治療法に対する戦略が提案されています。
たとえば、もしサイトカインによって脳内のミクログリアが反応してしまうのであれば
それを非反応状態にリセットする戦略。
そのためには特定の抗サイトカイン薬、抗ケモカイン薬を開発すること。
もし炎症が持続的なウイルス感染や、腸管等にリザーバーがある場合は、
ワクチンや抗ウイルス剤の両方が役にたつかもしれないといいます(※)。
一方、自己免疫疾患がメカニズムになっている様な場合は、
T細胞やB細胞をブロックするために
免疫抑制剤や免疫調節療法が必要な場合があるとのこと。
ただ、そうすると、新たな感染に気をつける必要がありますね。
また、神経血管疾患や血栓症がメカニズムの場合は、
抗凝固剤や血栓溶解剤の慎重な使用を必要とする場合があるとのこと。
ただこうした治療戦略が有効かどうかを検証するためには、
何らかのバイオマーカーが必要であるとも述べられています。
※現在のワクチンが、Long-COVIDにも有効かどうかはまだよくわかりません。
先日漢方.jpというサイトを見ていましたら、
Long-COVID外来で大忙しの平畑先生がゲストの回がありました。
そこでワクチン追加接種の話がでていました。
ワクチンの追加接種でLong-COVIDが改善する人もあるそうですが、
悪化する人もいるそうで、
少なくとも以前ワクチンを接種した時に強い副反応:
数日の発熱はいいけれど、倦怠感やBrain Fogの様な症状があった人や、
自己免疫疾患を持っている様な人は
追加接種は控えた方がいいのではないかとお話されていました。
Long-COVIDに上咽頭擦過療法(EAT,B-Spot療法)が有効という話があり、
当院にもEATを希望され受診される患者さんがいらっしゃいます。
確かによくなる患者さんもいらっしゃいますが、
中々成果がでない患者さんもいらっしゃいます。
Long-COVIDにEATが有効な場合というのは、
もっとも可能性が高いのは、
上咽頭からサイトカインが分泌されているタイプなのかもしれません。
(それを裏付けるような論文が日本から出ています)
EATだけでは改善がみられない場合は、
上記の様なメカニズムを考え、
いろいろな治療を試していく必要があると思います。
ただ、現在のところ、免疫抑制剤や抗凝固剤がLong-COVIDに
有効というエビデンスは出ていないと思うので、
そうした薬剤を使用するのは慎重に行う必要があると思います。
そうした薬剤は臨床試験で認められてからになると思います。
しかしだからと言って何もしないわけにもいきません。
効果的で安全な薬剤がでてくるまで、
とんりあえず効きそうなものを手探りで探していかなければいけません。
僕はやっぱり漢方がその一つの可能性を持っていると思います。