加味帰脾湯とオキシトシン

ここのところオキシトシンについて追ってきました。
アンテナを張っていたらこんな論文を見つけました。

”Identification of oxytocin receptor activating chemical components from traditional Japanese medicines (日本の伝統薬物からのオキシトシン受容体活性化成分の同定)”
出典はJournal of Food and Drug Analysis Vol. 29 : Iss. 4 , Article 8
https://doi.org/10.38212/2224-6614.3381

まずは、abstract(要旨)のPCによる翻訳:

「オキシトシン(Oxt)は、社会的コミュニケーション、ストレス、体重を調節することが知られています。 Oxt受容体(OTR)の活性化は、ストレス障害やメタボリックシンドロームを軽減する臨床的可能性を秘めています。加味帰脾湯(KKT)は、精神的ストレス関連の障害を治療するために使用される日本の伝統的な薬です。 KKT、その成分、および化学成分がOxtニューロンとOTRに及ぼす影響を調査しました。ラットにKKTを経口および末梢投与した後、C-Fosの発現を調べた。ラットの脳スライスで、KKTの適用時のOxtニューロンの電気生理学的変化とOxt放出を測定しました。 KKT、その成分、およびその化学成分の直接的な影響は、OxtニューロンおよびOTR発現HEK293細胞におけるサイトゾルCa2t([Ca2t] i)測定によって調べられました。ラットへのKKTの腹腔内投与と経口投与の両方で、Oxtニューロンを含む室傍核(PVN)のニューロンでc-Fosの発現が誘導されました。 KKTの適用はOxtニューロンの活性化とOxt放出を誘発しました。 KKTはOTR発現HEK293細胞で[Ca2t]iを増加させ、OTRアンタゴニストで活性化できませんでした。 KKTによって誘発されたPVNOxtニューロンの活性化もOTR拮抗薬によって弱められました。 KKTの3つの成分(Zizyphi Fructus(ZF:大棗)、Angelicae Acutilobae Radix(AR:当帰)、Zingiberis Rhizoma(ZR:生姜))の7つの化学成分(rutin, ursolic acid, (Z )-butylidenephtalide, p-cymene, senkunolide, [6]-shogaol, [8]-shogaol)が、 OTRを活性化する可能性があると考えられました。 KKTは、OTRと相互作用することにより、PVNOxtニューロンを直接アクティブ化できます。 KKTの7つの化学成分の相互作用は、OTRの活性化に寄与する可能性があります。 OxtニューロンとOTRに対するKKTの効果は、Oxt関連障害の治療に寄与する可能性があります。」

わかったつもりのところだけお話します。
興味を持たれた方は原論文をご覧ください。

まず最初の実験は、マウスに加味帰脾湯(KKT)を経口投与し、
脳の視床下部にあるオキシトシンを生成する場所:
室傍核(paraventicular nucleus;PVN)のニューロンが活性化するかを
刺激に応答して最初に発現するc-Fosという遺伝子の発現を調べました。

見た目にもKKT投与した方が全体的にも染まっている部分が多くみられます。

染まったニューロン(反応しているニューロン)の数は
コントロール(蒸留水)に比べKKTの方が多い。

この染まっている部分がオキシトシン関連のニューロンかどうかを
オキシトシンが染まる色素で二重染色してみると、
オキシトシン陽性のニューロンのでc-Fosが発現が多くみられたそうです。

↑ d,e:コントロール f,g:KKT投与 矢印がc-Fos発現ニューロン

この結果は加味帰脾湯をマウスの腹腔内に投与しても同じだったことから
加味帰脾湯のPVNへの効果は腸内細菌叢等の影響はあまりないよう様です。

このオキシトシン陽性ニューロンの電気生理学的な反応。


加味帰脾湯投与で反応を示しています

実験ではさらにこの効果が
オキシトシン受容体を通しての反応であることが確認されています。

そして、著者らはこうした反応が他の漢方製剤でも起こるのかを、
補中益気湯、四君子湯、人参湯でも調べました。
すると、補中益気湯でもしっかり反応がみられ、

四君子湯でも少し遅れてですが反応がみられましたが、
(反応が投与して少し遅れて出ています↓)


人参湯ではみられませんでした。


加味帰脾湯を構成する生薬は、
黄耆柴胡、酸棗仁、蒼朮人参、茯苓、竜眼肉
遠志、山梔子、大棗当帰甘草生姜、木香
なのに対して、
補中益気湯の構成生薬は、
黄耆蒼朮人参当帰柴胡大棗、陳皮、甘草、升麻、生姜
からなります。陳皮・升麻は入っていないですが、似ています。

四君子湯は:
蒼朮人参、茯苓、甘草大棗生姜
であり、人参湯は、
乾姜、甘草蒼朮人参
から成り立っています。

加味帰脾湯と同じようにオキシトシン分泌の反応があった
補中益気湯と四君子湯では共通する成分は、
大棗生姜人参蒼朮甘草
です。
ここで、人参・蒼朮・甘草を含む人参湯では
オキシトシン反応がみられなかったことから
この3つの生薬はオキシトシン分泌には影響を与えていない
可能性が高くなります。

当帰、大棗、生姜

この3つが、オキシトシン分泌のカギになりそうです。
(黄耆を含んだ加味帰脾湯と補中益気湯でより反応が強かったので
 対オキシトシンに関しては
 黄耆も何らかの影響を与えているかもしれません。)

さらにこの論文では、こうした生薬の主成分のうち
どの化学的な成分が関連あるかを
オキシトシン受容体を発現させた細胞で反応をみています。

詳しくは省略しますが、
3 種類の生薬の中で当帰が最も強くオキシトシン受容体を
刺激するアゴニストである可能性が高く、
化学成分としては、
ルチン、 (Z )-ブチリデンプタリド、センキュウノライド A
と呼ばれる物質がオキシトシン受容体を活性化させる可能性強い様です。