昨日、心臓発作をきたした人のその後の予後が、
犬を飼っている人の方が予後が良いという論文があり、
それがオキシトシンによる心臓保護作用らしいとお話しました。
その部分を丁度読んでいた頃に、こんな論文を見つけました。
”Oxytocin-gaze positive loop and the coevolution of human-dog bonds”
(オキシトシン-視線の正のループと人間と犬の絆の共進化)
出典は、Science 17 Apr 2015 Vol 348, Issue 6232 pp. 333-336
Oxytocin-gaze positive loop and the coevolution of human-dog bonds | Science
Abstract
Human-like modes of communication, including mutual gaze, in dogs may have been acquired during domestication with humans. We show that gazing behavior from dogs, but not wolves, increased urinary oxytocin concentrations in owners, which consequently facilitated owners’ affiliation and increased oxytocin concentration in dogs. Further, nasally administered oxytocin increased gazing behavior in dogs, which in turn increased urinary oxytocin concentrations in owners. These findings support the existence of an interspecies oxytocin-mediated positive loop facilitated and modulated by gazing, which may have supported the coevolution of human-dog bonding by engaging common modes of communicating social attachment.
要旨(機械訳)
「犬の相互注視を含む人間らしいコミュニケーション様式は、人間との家畜化の過程で獲得された可能性がある。我々は、オオカミではなくイヌの視線行動が飼い主の尿中オキシトシン濃度を上昇させ、その結果、飼い主の親和性を促進し、イヌのオキシトシン濃度を上昇させることを明らかにした。さらに、オキシトシンを鼻腔内投与すると、イヌの注視行動が増加し、その結果、飼い主の尿中オキシトシン濃度が増加することが明らかとなった。これらの結果は、注視によって調節されるオキシトシンを介した種間ポジティブループの存在を支持し、社会的愛着を伝える共通の様式に関与することによって、ヒトと犬の絆の共進化を支えてきた可能性を示している。」
以前、オキシトシンの話をした時に、
お母さんと赤ちゃんは見つめあうことでオキシトシンが分泌され
絆が強まるという話をしました。
こうした見つめあう効果というのが犬と飼い主の間にも生じるという論文です。
最初の実験は飼い犬とそのオーナー、
および飼いならされたオオカミとその飼い主とが、
触れ合った前後で尿中のオキシトシンがどのように変化するかを調べています。
上の図は最初の5分間の犬/オオカミと飼い主の行動です。
一番左の3本の棒グラフは、5分間にお互いに見つめあった時間です。
オオカミ(グレー)は飼い主とほとんど目をあわさないそうです。
犬の中には長時間見つめあうグループ(黒)と
あまり見つめあわないグループ(白)がある様で2つに分けています。
見つめる時間が長いグループは平均110秒程度に対し、
見つめる時間が短いグループは平均40秒弱でした。
真ん中の3本の棒グラフは飼い主が犬/オオカミに触れた時間、
右の3本の棒グラフは飼い主が犬/オオカミに話しかけた時間です。
上の図は、犬/オオカミおよび飼い主の
実験前と30分後の尿中のオキシトシンの濃度の変化(左グラフ)と
変化率(右のグラフ)を示したものです。
飼い主の尿中オキシトシンは、
見つめあう時間が長いグループ(黒)では30分後に増加がみられます。
変化率も優位に増加しています。
次に、動物の方はどうだったかのグラフです。
オオカミ(グレー)はもともとオキシトシンが多いみたいなのですが、
ふれあいの前後で変化はほとんどありません(というかやや低下気味です)。
見つめあった時間が長いグループ(黒丸)と
見つめあった時間が短いグループ(白丸)とは
実験前後でほとんど差がない様に見えますが
変化率では優位に黒丸の方が増加しているのがわかります。
つまり、見つめあう時間が長いグループでは、
ふれあいの前後でオキシトシンが飼い主と犬の両方で増加した様です。
オオカミの場合、手なづけられたとは言え、
どうもこうした変化は起きない様です。
それは遠い昔犬がペットとして人間とともに暮らすようになって
ともに進化してきた結果なのだろうとのことです。
なお、この論文ではもう一つ実験結果が載っています。
犬にオキシトシンまたは生理食塩水を投与しておいて、
飼い主または見知らぬ人と同席した場合に、
同様に尿中オキシトシンの変化が生じたかを調べています。
この実験でもオキシトシンを投与した方が
飼い主のオキシトシンが増えました(見知らぬ人では増えず)。
この実験では犬がオスかメスかでさらに結果を診ているのですが、
メス犬の場合に飼い主のオキシトシンの増加が多いようです。
これは飼い主と見つめあう時間がメス犬の方が長くなったための様です。
雌雄の違いは多少ありますが、
ペット(犬)と見つめあう時間が長いほど
オキシトシンの分泌が増える様です。