線虫も音を聞く 

当院のブログでは、音や声、或いは五感に関することなど、
できるだけ耳鼻咽喉科のブログらしいものを書くようにしています。

そんな中、今回アンテナにひかかってきたのがこの記事:
『ミミズのような線虫も音を聞く、驚きの仕組みが判明、定説覆す』
↑クリックしますと、オレンジ色の巨大なミミズみたいな、
 人によってはちょっと気持ちの悪い写真がでてきますのご注意下さい。

出典は、ナショナルジオグラフィック日本語版Webサイト2021.10.11から。

記事の元になった論文は、学術誌「Neuron」に9月22日発表された研究:
”The nematode C. elegans senses airborne sound”

ミシガン大学ライフサイエンス研究所からの論文
Open accessですので、興味のある方はどうぞ。

「ミミズは音を聞けるのか」。
この疑問に対し、1800年代、ダーウィンは自分の息子に
ミミズに向かってファゴットを演奏させ、
彼らが身動きするかどうかという実験をしたそうです。
ダーウィンが出した答えは「聞こえない」だった。

その後、聴覚は脊椎動物と一部の節足動物でのみ見られるもので、
無脊椎動物の大多数は音に鈍感であると考えられていました。

これに対して著者らは、C.elegansisという線虫を用いて、
聴覚があるかどうかを調べました。

このC.elegansisは体長1mm程度の線虫ですが、世界中の土の中にいて、
生物学や遺伝学においてもっとも研究されている動物のひとつで、
嗅覚、味覚、触覚があることは以前より知られていたそうですが、
さらには、最近では光の感覚も持っていることも報告されていて、
残るは聴覚だけが分かっていなかったようです。

ナショナルジオグラフィックによると、
著者ショーン・シュ氏の研究室では、このC.elegansisを
10年にわたり研究してきて、ようやくそれを突き止めたのだそうです。

先ほどC.elegansisは「土の中にいて」と書きましたが、
実際には地上の堆肥や腐敗した物質に生息しているそうで、
節足動物などの捕食者に狙われる存在なのだそうです。

ですので、節足動物の動き(音)には敏感である必要があり、
可聴音に対して嫌悪的な行動反応を示すと推論したそうです。
そこで、図の様な装置を作って音刺激をしたところ、

線虫(ワーム)は後ずさりをしました。
その様子は論文中のリンクからビデオで見ることができます。

様々な周波数で音に対する反応を調べたところ、
ワームは100Hz~5000Hzの範囲で音に反応したそうです。

ではどのように音を感じ取っているのでしょうか?
ワームには脊椎動物や一部の節足動物に見られる様な
「鼓膜」に類似の構造体はないそうです。

そこで音を聴かせた時のワームの体表の様子をみたところ、
ワームの体表のキューティクルが、
浴びせた音と同じ周波数で振動しているのが検出されたそうです。
これは音に対する反応と同じく5000Hz以上の音では
検出することができなかったそうです。


ナショナルジオグラフィックの記事では、
このあと、音を感知する分子が
ニコチン性アセチルコリン受容体(nAChRs)であったと、
サラリと書いてありますが、
論文ではそのあたりの詰めをかなり厳密に実験してあります。
(と書きましたが、僕には何のことかさっぱりわかりませんが)

ここでよく分からないのですが、
nAChRsが音の感知に必要なんだそうですが、
それでいてアセチルコリン(ACh)は音の感知に必要がないのだと。
AChの合成や放出に必要な遺伝子を働かなくしたワームで
同様の実験をしたところちゃんと音誘発反応を示すからなのだそうです。

AChが要らないAChR(レセプター)って何?

どうやらAChRはACh受容体として機能するだけでなく、
イオンチャンネルでもあるのだそうです。

これは推測ですが、
人間をはじめとする哺乳類などでみられる
蝸牛内の内有毛細胞が音(振動)を電気信号に変える時に
有毛細胞の毛が傾くと細胞内にカリウムイオンが流入してくる
というメカニズムがあるのですが、
nAChRsはこれと同じ様な働きをしているものなのかもしれません。

今回の研究で、これまで聴覚は
脊椎動物や節足動物に限定されていると信じられていたのが、
無脊椎動物(軟体動物、環形動物、扁形動物など)にも
聴覚を持っているという可能性が提起されました。