小さな子どもを連れてこられたお母さんがいらっしゃいました。
子どもは明らかに診察を嫌がっています。
診察室に入ってくるのに足がすくんでいるのです。
お母さんは、初っぱなから,子どもに言い聞かせています。
「痛くないからね!痛くないからね!」
診察の椅子に座ってからも、子どもをだっこしながら言います。
「痛くないからね!痛くないからね!」
子どもはますます泣き叫びながら暴れるばかりです。
「痛くないからね」という言葉は、「痛いよ!」と、実はイコールなんです。
たとえば、
「酸っぱいレモンのことを考えてはいけません!」
「レモンをかじるようなことを考えてはいけません!」
「レモンのことを考えると唾液が口の中にたまってきますので、
絶対に酸っぱいレモンのことは考えてはいけません。」
どうですか?そう言われるとむしろ口の中に唾液がでてくるでしょう。
脳科学によると、脳は否定形を理解できないそうなんです。
ですから、「痛くないよ!」と子どもを諭すのは逆効果なんです。
(ま、そんな時に子どもは逃げることに一所懸命で
母親の話などまったく聞いちゃいませんが。)
じゃぁ、どう言えばいいんでしょうね?
とりあえず、僕は、
「大丈夫!」
と言うようにするのがいいかと考えています。
そんなことで子どもは泣き止むのかって?
いいえ、泣き止みません。
そこは優しい顔をして、静かに黙々と処置を行うばかりです。
<診察の合間>