一昨日、昨日からの続きです。
夜泣き石の多くは丸い形をしているそうです。
丸い石には2種類あって、滝壺などで石が転がり丸くなったものと、
もう一つはノジュール(nodule)と呼ばれる、
泥の中で磁気を帯びた物質を核に泥が集まり結晶化したもので
割ると中にカニなどの化石が見つかることがよくあるそうです。
こうしたことから、丸い石の中には命が宿っていると考え、
丸い石に対する生命の信仰が生まれたのではないかとのこと。
⇒漢方生薬の一つに「竜骨(リュウコツ)」というものがあります。
大型哺乳類の化石化したもので、主成分は炭酸カルシウムです。
(竜骨のカルシウム以外の微量な成分が大切という話もありますが)
カルシウムは精神安定に欠かせない成分です。
⇒昨日の「ヨナキガイ(キセル貝)」を原料とする、
カンニャボという民間薬にもカルシウムが豊富とありました。
あるいは海のヨナキガイ(ナガニシ貝)も貝です。
また、講演では詳しくは触れられませんでしたが、
講演資料を読んでみますと、アワビも夜泣き封じに用いる様で、
貝類・カルシウムにヒントがありそうです。
⇒先に出てきた「竜骨」はほとんど一緒に「牡蠣(ボレイ)」という
生薬も用います。ボレイはそのままカキの貝殻ですね。
この「竜骨」と「牡蠣」を用いた漢方処方には、
柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)と
桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)があります。
いずれも神経過敏的なストレス系の処方です。
⇒夜泣き封じに、竜骨と関連ありそうな夜泣き石、
牡蠣と関係ありそうなヨナキガイ。
昔の人は経験的に知っていたのかもしれません。
<夜泣きの松>
小夜の中山には夜泣き石の周辺には松の木があって、
この松の木の皮を剥がして燃やすと
たちどころに夜泣きが止むという伝説があったのだそうです。
他にも、沼津市内浦や修善寺横瀬という地方でも
松の皮をいろりでともすとよいとされてきたそうです。
なぜ松の皮を燃やすと泣き止むのか?
松の木は「祀る木」「祭りの木」つまり神様が降りてくる聖樹。
神のご加護をいただくという意味があったのだと。
また、赤ちゃんは生まれたてはまだ視力が悪く、
ぼんやりとしか見えていないそうですが、
松の灯火をみると目を開かせ、
目覚めさせることができたのではないかとのこと。
さらに、松を燃やした香りが赤ちゃんの嗅覚を刺激したり、
高まった気を静める効果があるらしい。
また、燃える「パチパチ」という音も
赤ちゃんを目覚めさせる効果があったのではないかとのこと。
⇒まあ、囲炉裏や暖炉の「パチパチ」という音は、
むしろリラックスを呼び起こすような気もします。
<日坂宿の「小児疳妙薬」>
日坂は良質な石が算出されるところだったそうで、
今でも「いしや」という屋号をお持ちの方(現在18代)が、
名物「わらび餅」を販売されているそうなのですが、
その家には、「小児疳妙薬」という古い看板が残っているそうです。
そこで、先代(17代)にお話をうかがったところ、
柏の葉を食べる蛾の繭(山繭)と、
トンビの尾羽の黒焼きを練って丸薬にしたものだそうです。
なぜ繭なのか?
最近(食用)シルクパウダーが注目されているが、
シルクの効能があったのだろうか?
また、「繭」というのはさなぎが眠る装置であり、
それが眠りの信仰に結びついたのではないか。
⇒ここ面白そうなのでちょっとネットで調べてみました。
シルクパウダーにはたくさんのアミノ酸が含まれています。
ひょっとしたら、睡眠誘導物質メラトニンの原料の
トリプトファンが多く含まれているかと思いましたが、
いくつか成分表示を見てみましたが、
含まれる含まれないか微妙なところみたいです。
⇒もう一度よく読んでみますと、
繭は繭でも桑の葉を食べるカイコの繭ではなく、
「柏の葉」を食べる蛾(ヤママユガというのがいるんですね)の繭
なので、成分が異なるのかもしれません。
ただ山繭の構成成分にトリプトファンが多いと言った
記述はどこを探してもありませんでした。残念。
それなら、食べる柏の葉の方にヒントがあるかと
これも調べてみましたが睡眠との関連は見い出せませんでした。
⇒ただ、もう少しネットを眺めていたら、
繭の中の幼虫には休眠物質があるらしいと書いてありました。
ヤママユガで発見されたので「ヤママリン」というそうです。
5つのアミノ酸:Asx・Ile・Leu・Arg・Gly+ アミド
(DILRG-NH2) という構造。
直接睡眠に関係するようではないのですが、
細胞分裂・増殖を止める作用があることから、
がん治療に応用が期待されている様です。
次になぜトンビの尾羽なのか?ですが、
トンビの鳴き声にヒントがあるのではないかとのことでした。
つまり、トンビは「ピーヒョロロロロー・・・」と鳴きます。
この「ロロロロー・・・」がいいのだと。
九州で馬をなだめる時には「ドウドウ」ではなく
「オロオロ」と言いながらなだめるのだそうです。
浜松市懐山の神事(おくない)では、神様に奉納する芸能の中に、
「駒の舞」と呼ぶ、馬の売り買いを演ずる演目があるそうです。
そこで、馬が良馬か否かを見抜く技術にたけていたとされる伯楽が
「ドウドウ」と声をかけたところ、村人が、
「このあたりでは馬を静める時には『オロオロ』と声をかけるんだ」
と言うくだりがあるそうです。
また、地方の子守歌には、
「オロロンバイ」といった擬態語がよく使われるそうです。
こうした「オロロロ・・・」という語感は魂を静める呪音なんだそうです。
⇒「オロロロ・・・」については、
そういえば「オロロンバイ」という言葉を聞いたことあるかな、
くらいしか思いつきませんでしたが、
確かにトンビの「ピーヒョロロロロー・・・」という鳴き声には、
のどかな田園風景を想起されるような気がします。
というわけで、八木先生の夜泣きに関する民間伝承の話、
興味深く拝聴させていただきました