前回、インフルエンザウイルスの初感染に対して、
補中益気湯が有効である
という動物実験の論文についてお話しました。
そのポイントは
早期にインターフェロン(INF)が誘導されることで、
結果的に総量としては抑えられ、
サイトカインの分泌も抑えられ、
正常の組織にまで炎症が波及するのを
防ぐのだろうと考えました。
では、これがそのまま現在のCOVID-19にもあてはまるのか?
まあ、そう期待したいところではありますが、
どうもそう簡単ではなさそうです。
COVID-19にはINFの誘導を回避する能力がある様なのです。
このことは、以前の当院ブログ:
>新型コロナ感染症とインターフェロン
でもちょっとだけ触れています。
”コロナ系(SARS、MARS、そして今回のウイルスもおそらく)は、
細胞に侵入してきた際にウイルスRNAの顔を
目立たなくさせることでINF(特にI型INF(INF-I))の産生が
遅れる傾向があるらしいのです。”
これは、そこで紹介した論文にそう書かれてあったので、
そのまま引用したのですが、
具体的にどういうふうに行われているのかまでは知りませんでした。
それを具体的に実験で実証したのが次の論文だと思います。
”Activation and evasion of type I interferon responses by SARS-CoV-2”(SARS-CoV-2によるI型インターフェロン応答の活性化と回避)
出典はNature Communications 2020/6/30号
この論文には図表がたくさんあり、かなり専門的で、
僕はほとんどチンプンカンプンだったんですが、
なんとか理解できるところをピックアップしてみました。
一般的にウイルスが感染すると、
我々が本来持っている抗ウイルス作用として、
主にINFが分泌され、
その後インターフェロン刺激遺伝子(ISG)が次々と発現され、
それに従って抗ウイルス作用が進み、
ウイルスが排除されていきます。
こうした変化を実験的にやってみると、
普通のウイルスの場合、
ウイルスに感染して8時間後くらいにピークを迎え、
その後徐々に収まっていくそうです。
それが、SARS-Cov-2の場合は、12時間たっても始まらず、
24時間経過するころから
今度は逆に急に大量に分泌される様です。
つまり、SARS-Cov-2感染は、INF産生を遅らせることで、
その合間に増殖し、宿主の抗ウイルス作用を減弱させて
生き延びるという戦略をとっている様なのです。
それも一つの経路だけでなくいくつもの経路を阻害するという、
なんともしたたかな戦略の様です。
昨日お話した様に、補中益気湯には
感染初期にインターフェロンを増加させる作用がある様ですが、
SARS-Cov-2はそれを抑えるメカニズムを持っています。
はたしてどちらが勝つのでしょう?
ここで勝敗に影響する重要な因子として、
疲れやストレス、寝不足などが
関係してくるのではないかと思います。
今後の研究結果を待ちたいと思います。
※これは過去の論文などをもとに考察したもので、
実際には漢方は、体質等を考慮したり(弁証)、
独特の診察法(四診)をもとに
処方を行う場合が多いと思います。
その結果、補中益気湯以外の処方の方が
適している場合もあります。