今回の論文はこれ:
”Synergism of TNF-α and IFN-γ Triggers Inflammatory Cell Death, Tissue Damage, and Mortality in SARS-CoV-2 Infection and Cytokine Shock Syndromes”
(Google翻訳:TNF-αとIFN-γの相乗作用は、SARS-CoV-2感染およびサイトカインショック症候群において炎症性細胞死、組織損傷、および死亡率を引き起こします)
出典はCellで11月にネットで公開されていますが、
雑誌としては2021年1月7日版の様です。
doi.org/10.1016/j.cell.2020.11.025(上のリンクと同じ)
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、
ウイルスに感染しても無症状の人から死に至る人まで
症状に振れ幅の大きい病気です。
何が重症化のカギになるかがわかれば自ずと
対処法がわかってきます。
一つは血栓症なんだと思いますが、
もう一つは肺を中心とした全身的な組織の炎症と損傷。
そのメカニズムとしてはサイトカインストームが
関連することは早くからわかっていましたが、
そのサイトカインがおこすメカニズムについては
まだよく分かっていませんでした。
今回、それを調べたのがこの論文。
サイトカインストームが臓器損傷を引き起こすメカニズムとして、
細胞死が関連しています。
この細胞死には3種類あって、
ピロトーシス(Pyroptosis)
アポトーシス(Apoptosis)
ネクロトーシス(Necroptosis)
というのがあって、合わせて PANoptosisと呼ぶそうです。
これまでのCOVID-19の研究から、
中等度または重度の患者さんでは、
インターロイキン(IL)-6、IL-18、IFN-γ、IL-15、TNF、IL-1α、
IL-1β、およびIL-2のレベルが上昇していることがわかっています。
この中のどれが、特に重症化に影響を与えているのかを、
骨髄由来のマクロファージにこれらのサイトカインを投与して、
細胞死を誘導できるかどうかを調べました。
その結果、一つ一つを個別に投与した場合は、
細胞死を誘導しなかったにもかかわらず、
すべてをカクテルしたものを投与した時には、
強い細胞死を誘導することができました。
となると、サイトカインの組み合わせで
細胞死が誘導誘導されるのだろうと考えられます。
そこで、それぞれ2種類を合わせて投与したのがこの図。
IFN-γとTNF-αを組み合わせて投与した時のみ、
すべてを一緒に投与した時とほぼ同じくらいの
細胞死を誘導することができ、
他の組み合わせでは起こりませんでした。
INF-γ、TNF-αと、それらを合わせて投与した場合の
細胞死の割合を時間経過でみたものでも、
療法合わせて投与した場合に24時間経過した頃から、
急に増加してくるのがわかります。
つまりINF-γとTNF-αの相乗作用が細胞死の誘導に
重要であるとわかったとのです。
そこで、INF-γとTNF-αをマウスに大量投与してみたところ、
INF-γだけ、TNF-αだけを投与では
有意な死亡はみられなかったのに対し、
INF-γとTNF-αの両方を投与した場合には
相乗的に死亡率が上がったのだそうです。
そしてさらに、同時投与した場合、COVID-19で観察される
他の検査値・・・SLT、AST、BUN、フェリチン、血小板減少等
といった異常も同じように観察されたそうです。
この論文ではさらに、INF-γとTNF-αが細胞に働いて、
どのように細胞死(PANoptosis)を来すのかという
メカニズムについても考察を行っています。
そして、最終的に重症化を予防するために、
これらの中和抗体を投与することで、
死亡率が減少することをマウスの実験で確認しました。
こうした中和抗体により治療は、今後、
COVID-19の重症化の予防だけでなく、
他のサイトカインを介した炎症性疾患の治療、
例えば敗血症や血球貪食性リンパ組織球症などの
炎症性疾患にも有用ではないかと考察しています。