『腸と脳』の本について、ずっと読み解いてきましたが、
この夏、この分野で日本発の仕事がNatureに掲載されました。
”The liver-brain-gut neural arc maintains the Treg cell niche in the gut”
タイトル和訳>肝臓-脳-腸管迷走神経反射による腸管制御性 T 細胞産生機構の解明
論文要旨>https://www.nature.com/articles/s41586-020-2425-3
6月に電子版が掲載されたので、論文をネットで購入してみましたが、
ようやく雑誌の方にも掲載された様です。
ありがたいことに、プレスリリースで、
業績を紹介してくださるサイト( 日本の研究.com )があり、
これでだいたいのことが理解できました。
>https://research-er.jp/articles/view/89553
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近年、ライフスタイルや環境の変化に伴い、
炎症性疾患、メタボリックシンドローム、うつ病、
がん、新興感染症などの病気が増加しています。
そして、こうした病気に大きく腸内微生物が関与している
ということが、ここのところドンドンと報告されています。
僕も、『腸と脳』の本を読んでいくうちに、
「へえ、そんなことがあるんだ!」から、
「確かにそんな気がする」に変わってきています。
まあ、そんなもんんですから、すっかり洗脳されてしまい、
脳-腸-マイクロバイオーム相関を
信じるようになってきていました。
ところが、このあたりを専門にやっている人たちにとっては、
理論の合間もきちんと埋める必要があるのですね。
僕なんかは、「脳と腸は相互に連絡をとりあってるんだって、
すごいね!」で、すぐに信じてしまっていたのですが、
実は腸から脳に向かうシグナルのルートが
まだよくわかっていなかったんですね。
そんなの、腸管から腸管神経節を介して
求心性迷走神経からダイレクトに脳に行くか、
サイトカインの様な炎症分子が血液中に放出され、
回りまわって脳に到達するものだと思っていました。
ところが、実際には膨大な腸管の情報は、
一旦肝臓に集積・統合され、肝臓から自律神経を介して
脳・全身に連関しているそうなのです。
マウスに腸炎を発症させ、
そのマウスの求心性迷走神経(内臓⇒脳)を切断すると、
腸管内で炎症を抑えている制御性T細胞(Treg)の数が減少し、
腸炎が酷くなるのだそうです。
この現象は迷走神経の肝臓枝だけを切断しても生じることから、
肝臓が情報伝達に重要な役割を果たしていることがわかりました。
こうしたことから、腸の情報は、
腸→肝臓→脳→腸というループで情報が帰ってきて、
腸管内の炎症を抑えるTreg細胞に影響を与えるらしいのです。
(論文ではさらに腸内細菌もやはり重要な役割を担っている
ことも証明してる様です)
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肝臓が脳腸相関に関連する・・・これって、
漢方や中医学の「五行説」という考えにも通じるものかも。
五行説では、いろいろなモノや現象を、
「木」「火」「土」「金」「水」という5つの系に分類します。
内臓はそれぞれ、木-肝、火-心、土-脾(消化器系)、
金-肺、水-腎がそれぞれ割り振られています。
このうち、「肝」は肝臓的な意味もありますが、
ストレスや感情(特に怒り)といったものも含みます。
「肝」が強くなると(ストレスが多くなると)、
胃潰瘍や過敏性腸症候群など消化管(「脾」)の症状が
出やすくなります。
ストレスや感情を肝臓の「肝」に割り振った、
古代中国の人の洞察力はすごいなと思います。
そして、科学的に着実に一つずつ理論を固めていく、
日本の科学者もすごいなと思います。