『腸と脳』第3部 脳腸相関の健康のために 第9章 猛威を振るうアメリカ的日常食2

食品産業に依存する現代の食事は、なぜ脳や身体に悪いのか?

科学者たちは、これまで長い間この問題を、
慢性疾患や肥満に結びつけてきたと筆者は言います。
脂肪細胞からは、サイトカイン、アディポカインと言う物質が
血中に分泌され、それが血流に乗って体内を循環し、
心臓、肝臓、脳に達すると炎症を引き起こすのだとされています。

この種の炎症分子は「代謝内毒素症」と呼ばれる
低悪性度炎症の主要因であり、
循環器系疾患やがんを発症する
リスクを高めると考えられてきました。

それに加えて、最近では、
うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病などの
脳疾患においても、その種の辺縁で生じる代謝プロセスと
結びつけて考えられる様になってきました。

空腹の時には食欲を刺激するホルモンが胃壁から分泌され、
摂食行動を司る脳領域、視床下部などを刺激します。

満腹時には小腸内の分泌細胞から食欲を抑制するホルモンが
分泌され、食べたいと思うシステムをオフにします。

これまで人類が生存してきたほとんどの期間にわたり、
このシステムは非常にうまく機能していました。
ところが今日のアメリカ人の動物性脂肪中心の食習慣では
このシステムがうまく働かなくなっていると筆者言います。

動物性脂肪分の多い食物を常時摂取していると、
満腹に対する腸と脳の反応が鈍り、
十分食べたという感覚が失われることが
動物実験でわかったそうです。

これは腸内および脳内で生じる軽度の炎症によって
引き起こされるのだそうです。

腸内に軽い炎症が起こると、
満腹シグナルに対する腸での迷走神経の感受性が低下し、
同様に、視床下部の炎症は、
腸から送られてくる満腹シグナルに対する感受性を、
低下させるのだそうです。

ではなぜ動物性脂肪の多い食習慣によって
腸や脳で炎症が引き越されるのか?

炎症を引き起こす分子の一つに
リボ多糖(LPS)と呼ばれる物質があります。
一般的にはこの物質は、大腸菌やサルモネラ菌など病原菌の
細胞壁に多く含まれていると言われています。

しかし、それだけでなく、
私たちの腸内に常在するマイクロバイオータの中にも、
LPSを多く含んだグループがいます。
動物性脂肪の多い食物を摂取していると増加する、
ファーミキューテス門、プロテオバクテリア門
と呼ばれるグループです。

腸の内壁を構成する細胞は、こうした腸内微生物が近づくと、
微生物の細胞壁を構成するLPSを検知して刺激され、
別の炎症分子(サイトカイン)を生成します。
このサイトカインが腸内の免疫細胞を活性化します。

通常 こうした免疫の活性化は
少量のLPSであれば腸の内壁のバリアによって、
うまく抑制されるのですが、
動物性脂肪の多い食事を続けていると、
上記の腸内微生物が増え、LPSのレベルも上昇し、
バリアを突破して腸壁に触れる機会が増えて、
腸の免疫系が活性化され、
血中にサイトカインが放出されてしまうのだそうです。

そして、このサイトカインが脳に達すると、
脳の免疫系と言われるグリア細胞と呼ばれる細胞が刺激され、
脳にも低悪性度だが慢性的な炎症を引き起こすのだそうです。

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うつ病、アルツハイマー病、パーキンソン病などの脳疾患が、
脳の慢性炎症で生じるという話は、
実は当院のブログでも以前にお話しています。
本:体内の「炎症」を抑えると、病気にならない!1
本:体内の「炎症」を抑えると、病気にならない!2 

この時には、慢性炎症を抑えるには、
飽和脂肪酸=常温で固まる:動物の脂、バターなどを控えて、
不飽和脂肪酸=常温で液状:魚油、エゴマ油、亜麻仁油
など・・・中でもω-3系と呼ばれる不飽和脂肪酸
(EPA・DHA・αリノレン酸)などを
多く摂るようにしましょう、
と本の紹介をしつつ書きました。

ここに、マイクロバイオータが関係しているのですね。