『腸と脳』第2部 直感と内臓感覚1 不健康な記憶

この2週間、ブログの更新が止まっていました。
べつに体調が悪かったわけではありません。
9月から電子カルテを新システムに変える予定をしておりまして、
その準備に少し時間を取られています。

さて、『腸と脳 第二の脳がもたらすパラダイムシフト』

という本の第2部についてお話をしたいと思います。
第1部については、
本:腸と脳 第二の脳がもたらすパラダイムシフト1 腸はスーパーコンピュータ
過去のこのあたりのブログからあとを参考にしてください。

この本の第1部は、
”腸は食べたものを消化・吸収する単なる器官ではなく、
脳からも影響を受けると同時に、
逆に腸から脳にも影響を与えている。
そして、それに一役買っているのが腸内微生物叢である。”
という話でした。
これは脳腸相関、あるいは脳腸マイクロバイオーム相関と
呼ばれています。

脳腸相関については、
別の本『ポリヴェーガル理論入門』にも少し触れられています。
それは脳と腸が大きな情報ハイウェイ「迷走神経」が
関係していると思われるからでした。
そのことについては僕も一度記事にしています。
本:ポリヴェーガル理論入門5 双方向性システム

第2部では、脳と腸、そして腸内微生物が、
実際にどのように影響を与え合っているか、
特にストレスや人の情動との関連について書かれています。

第2部は「第5章 不健康な記憶」という表題から始まります。

不健康な記憶とは、ストレスの記憶のことです。
幼少期に大きなストレスを受けると、
成長してから抑うつや不安障害、
あるいは過敏性腸症候群などストレスで悪化しやすい病気を
引き起こしやすくなると、筆者は言います。

つまり、幼少期に受けたストレスやトラウマなどの経験は、
脳の神経回路にプログラミングされやすいのだそうです。
これはラット等いろいろな動物実験でも報告されている様です。

脳には周囲の危険や身体刺激の意味を評価する
ネットワークシステムがあるのだそうです。
これをサリエンス・システムと呼び、
脳の中でも島(とう)皮質(なかでも右前島皮質)と前帯状回と
呼ばれる領域にあるそうです。

幼少期にストレスを受けると、
このサリエンス・システムの神経活動に
変化が生じやすいのだそうです。

ただ、人間の場合は、ラットの様な動物と違って
脳の構造が複雑にできています。
逆境の中を耐え忍び、その後成功し幸福な人生を歩んでいる
人の例は枚挙にいとまがありません。

幼少期に変化したストレスシステムは、
成人してからも影響を与える可能性はありますが、
それを逆転・克服させる方法はあるそうです。

その一つは、成長過程での周囲の人の安定した環境サポート。
たとえば親と死別したりといった出来事があったとしても、
他の家族や祖父母、友人、周囲の人々の支援があれば、
心の成長とともに乗り越えることはできます。

他にも、認知行動療法や催眠、瞑想など心のセラピーは
周囲の状況や身体刺激を評価するあり方を変えてくれる
可能性があるそうです。
こうしたセラピーは主に脳の前頭前皮質を強化することによって
脳のネットワークの構造や機能を変えるのだそうです。
これは、コンピュータ用語に例えると、
プログラムのバグを修正するパッチに似ているのだそうです。

そして、もう一つ脳腸マイクロバイオーム相関についても
考えてみることができます。

ここでマカクザルというサルの実験が紹介されています。
思春期のマカクザルが母親の元を去らなければいけなくなったとき、
時にストレスで下痢をするのだそうです。
この時、腸内ではどんなことが起こっているのか。

ストレスで腸が強く収縮し、
食物がすばやく先に追いやられると同時に、
腸内への消化液の分泌が促進されます。
そして糞便性細菌の数は激減し、
良性細菌の一種の乳酸菌が最も減少、
そして、大腸菌などの病原菌が勢力を増し、
腸感染につながるのだそうです。
さらにこの侵入者たちは、
ストレスホルモンであるノルエピネフリンによって、
より執拗で攻撃的になるそうです。

ただ、こうした実験では、ストレスの影響は一時的で、
新たな環境に順応しはじめたころには、
腸内の乳酸菌の数はもとのレベルにもどったそうです。

もし同様のことが人間の腸でも起こっているとしたら、つまり、
ストレスでマイクロバイオータとその産物に
変化が生じているのであれば、
プロビオティクスやプレバイオティクスを積極的に摂取することで、
情動を司る脳のネットワークの過剰反応に対して、
不快な症状が緩和できるかもしれないと
考えられるのだと思います。

まあ、こうした「ストレスには腸内細菌を整えましょう」的な話は、
最近はちょっとネットを調べればあふれるように情報が得られます。
ただ情報は玉石混淆ではっきりエビデンスが出されているとは
限りませんので、一つ一つ丁寧に元資料に立ち戻って
確認していく方がいいと思います。