春の初めに沈丁花の話をしました。
沈丁花と秋の金木犀、それに梔子を加えて、
三大香木と呼ぶそうです。
その梔子・・・クチナシについては、
なんとなく漢字よりカタカナの方が僕はしっくりしますね。
・・・そのクチナシが今、当院の前の生け垣で咲いています。
(クチナシだと思っているのですが、間違っていたら
こっそりと教えて下さい)
沈丁花よりも甘い香りです。
ネットで調べてみますとクチナシはアカネ科クチナシ属で、
学名が Gardenia jasminoidesと言うらしく、
「庭に咲いたジャスミンのような花」ということなんでしょうね。
花言葉は「とても幸せです」「優雅」なんだそうです。
「優雅」という感じは、どことなくわかりますね。
沈丁花よりは派手です(笑)。
香りの成分はベンジルアセテート、リナロール、リナリルアセテート、
ターピネオール、メチルアンスラニレートなどと書いてあります。
リナロールは沈丁花でも勉強しました。
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そして、クチナシは最初に書いた様に漢字では梔子と書きます。
これをクチナシと読まずに「しし」と読めば漢方生薬になります。
山をつけて「山梔子(さんしし)」と呼ぶ場合もあります。
梔子・山梔子は完熟した実を乾燥させたもので、
解熱作用や止血作用などがあり、
黄連解毒湯、加味逍遥散、荊芥連翹湯、五淋散、温清飲、
清上防風湯、防風通聖散、竜胆潟肝湯、清肺湯、辛夷清肺湯、
茵陳蒿湯、加味帰脾湯、梔子柏皮湯、梔子豉湯
などの構成生薬になっています。
こうした山梔子を含んだ漢方の中でも、
黄連解毒湯(高血圧関連や鼻出血にも用います)
加味逍遥散(主にメンタル系)
荊芥連翹湯(慢性副鼻腔炎や慢性扁桃炎で)
辛夷清肺湯(慢性副鼻腔炎で)
加味帰脾湯(耳管開放症でよく用います)
あたりは耳鼻咽喉科でも特になじみのある処方です。
この山梔子を含んだ漢方、効くときにはよく効くのですが、
長期に(9割は約5年以上と言われています)服用すると、
「腸間膜静脈硬化症」という腸管が慢性的に
虚血状態になる病気を引き起こす副作用があり注意が必要です。
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クチナシについてインターネットで調べていたら、
野口武彦さんのサイトに面白い記事がありました。
>クチナシ昨今
昔の日本人もクチナシを歌に読み込んでいるそうです。
1006 山吹の花色ごろもぬしやたれ問へど答へず口なしにして(古今集 巻第19俳諧歌、素性法師)
1026 耳成(みみなし)の山の口なし得てしがな思ひの色の下染めにせん(同巻第19俳諧歌、読人不知)
訳・解説は前出のリンク先をご覧下さい。
昔の人は香りよりも色としてクチナシを捉えていた様です。
そしてもう一つ、さらに面白かったのが江戸時代の雑俳:
くちなしや鼻から下はすぐに顎
このおちゃらけたところ、イイですね。
ま、そんな様な知識をネットで仕込んでは
仕事の前後に梅雨の合間に時々香りを楽しんでいます。
沈丁花の香りを嗅いで「ああ、春が来たんだなぁ~」と、
独りごちたと以前書きましたが、
今はクチナシの香りを嗅いで、「ああ、そろそろ夏なんだなぁ~」
と、これまた一人つぶやいています。