前回紹介しました日経メディカルの記事、
>BCGと新型コロナ、分かっていることいないこと(後編)
(閲覧には会員登録が必要かもしれません)
の中に、興味深い論文が紹介されていました。
>Type I and Type III Interferons ? Induction, Signaling, Evasion, and Application to Combat COVID-19
(I型・III型インターフェロン:誘導、シグナル伝達、回避とCOVID-19の治療戦略)
前回、病原体に対する身体の防御に、
自然免疫というものがあると書きました。
その自然免疫の中心的役割の一つがインターフェロン(INF)です。
身体にウイルスが侵入してきたとわかると、
細胞は「助けて!」というシグナルを出します。これがINFです。
このシグナルを受けて、細胞は自らの遺伝子の中から、
さまざまなウイルス退治メカニズムをもった遺伝子
(インターフェロン刺激遺伝子(ISG))を活性化させます。
コロナ系(SARS、MARS、そして今回のウイルスもおそらく)は、
細胞に侵入してきた際にウイルスRNAの顔を
目立たなくさせることでINF(特にI型INF(INF-I))の産生が
遅れる傾向があるらしいのです。
その時ウイルスの量が少なければ、
それでも何とか素早く対応し、INF-IのシグナルがISGに届き、
諸々のウイルス駆除プログラムが働いて
ウイルスは複製されずに炎症がおさまっていくそうです。
これに対して、最初のウイルスの暴露量が多いと
INFーIの産生が遅れてしまい、ウイルスが駆除できずに、
INF-Iも長い間出続けるのだそうです。
このINF-Iは炎症をおこさせるサイトカインであるため、
初期にワーっと出てもすぐに収まれば
組織のダメージは少ないのですが、
長い間出続けると、周囲への炎症もひどくなり、
組織が焼け野原になってしまい、全身的な影響も出現し、
重症化へと進む原因になるのだそうです。
↑ウイルス因子と宿主因子の両方がIFN応答のタイミングに影響を与える可能性があります。 初期ウイルス量が少ない場合(左)、IFNは早期に誘導され、感染を効果的に取り除くことができます。 高いウイルス量(右)は、ウイルス回避メカニズムによるIFN応答を強く抑制し、誘導の遅延を引き起こす可能性があります。 または、高齢者ではIFN誘導が損なわれる可能性があります。 IFN応答が初期のウイルス複製を制御するのに不十分である場合、遅発性IFNは炎症と肺損傷につながる可能性があります。 (google翻訳)
ですから、感染の早期にINF-Iが足らないのなら、
外から足してやれば素早く鎮火できるという考え方が浮上してきます。
IFN-IがSARS-CoV-2の予防薬または早期治療選択肢として
有効である可能性があるわけです。
実際に、INF-Iの一種、組み換えINF-α点鼻薬を用いた
予防が治験的に行われているようです。
ただし、INF-Iは長く使うと今度は炎症が重症化する危険が
徐々に増えてくるというジレンマが出てきます。
ここで登場するのがIII型INF(INF-III)です。
INF-III(INF-λ)のウイルス制御の方法は、
局所的で、長期的、非炎症性という特徴を持っているそうで、
感染初期に鼻腔内投与や吸入をすることで、
上気道でのウイルスの複製を制限し肺への伝搬を
防止するだけでなく、INF-Iで駆除し損ねた場合に
炎症の拡大や全身反応を引き起こすことなく、
長時間にわたりウイルスから粘膜上皮を保護することが
できる可能性があるのだそうです。
I型とIII型のインターフェロンをうまく使うことで、
COVID-19がうまく鎮圧できるといいですね。