II型糖尿病の病態生理における腸内微生物叢の役割

次は腸内微生物叢とII型糖尿病についての論文です。

Role of gut microbiota in type 2 diabetes pathophysiology
Manoj Gurunga, Zhipeng Lia, Hannah Youa, Richard Rodriguesb, Donald B Jumpc, Andrey Morgunb, Natalia Shulzhenko
National Center for Biotechnology Information, U.S. National Library of Medicine
II型糖尿病と細菌のマイクロバイオームを調査した観察研究:
共通の認識がなされているのは、
ビフィドバクテリウム属(いわゆるビフィズス菌)、
バクテロイデス属、フェカリバクテリウム属、アッカーマンシア属
およびローズブリア属は
II型糖尿病と負の関連(菌が少ないと増悪)があり、
ルミノコッカス属、フソバクテリウム属とブラウティア属は
正の関連(菌が増えると増悪)がみられました。

ラクトバシルス属(乳酸菌属)のII型糖尿病に関しての認識は、
完全には一致していませんが、6つの論文のうち5つの論文で
正の関連が報告されているのだそうです。

さて、このようにII型糖尿病患者さんでは糖尿病でない人と比べ
腸内での微生物(主に細菌)の種類の比率が変わっています。
この微生物叢が代謝に及ぼす影響についても
徐々に分かってきています。

微生物叢は、炎症を調節し、食事成分と相互作用し、
腸の透過性、グルコースおよび脂質代謝、インスリン感受性、
および宿主の全体的なエネルギー恒常性に影響を与えるそうです。

たとえば、乳酸桿菌 Lactobacillus属のL.paracasei や、
Bacteroides属のB. fragilisは、
今回の新型コロナウイルス感染症の第2相で生じる
サイトカインストームに関連すると言われているIL-6の発現を
阻害するようです。
他にも有益な微生物は炎症を防ぐ方向に働く様です。

逆に、潜在的に有害な微生物は、他の炎症性疾患での話ですが、
いくつかの炎症性サイトカインを増加させている
可能性があるとされています。
特にリポ多糖(LPS)は代謝性内毒素血症と軽度の炎症を
促進させる方向に働きます。

その他、腸透過性についても考察があります。
II型糖尿病では、腸透過性が増加しているそうで、
その結果、腸内微生物産物が血液中に移行し、
代謝性内毒素血症を引き起こしやすくなっています。
たとえばバクテロイデス(Bacteroides vulgatus と B. dorei)や、
Akkermansia muciniphilaは、結腸の細胞結合を強くして、
腸透過性の低下、LPS産生を低下させ、
内毒素血症の改善につながることがわかっています。

さらに、腸内細菌叢の代謝産物は、肝臓、筋肉、脂肪などの
代謝器官に働き、グルコース恒常性とインスリン抵抗性に
影響を与えることによって、また逆に糖の消化を制御する
腸ホルモンの産生に影響を与えることによって、
II型糖尿病にも影響を与える可能性があるのだそうです。

また、脂肪酸の酸化とエネルギー消費の増加と、
脂肪酸の合成の減少によって、肥満が改善し、
その結果II型糖尿病も改善するのだそうですが、
そうした脂肪酸の代謝に、Akkermansia muciniphila、
Bacteroides acidifaciens、Lactobacillus gasseri
といった細菌が関与しているのだそうです。

僕はこの分野は専門ではないので、
大雑把な話になってしまいましたが、
要は、有益な細菌等が腸内から少なくなるとII型糖尿病に
なりやすいし、悪玉の微生物が増えてくると、
糖代謝や脂肪酸の代謝が悪い方向に働き、
腸のバリアも弱くなっていろいろな腸内微生物の代謝産物が
体中を巡ることになり、体中に炎症を引き起こすと考えられる
ということですね。