本:腸と脳 第二の脳がもたらすパラダイムシフト3 腸の内分泌系

前回は腸を中心とした内臓の情報が、
神経系を介して脳に逐一送られて蓄積されている
という話を書きました。

腸と脳を初めとする身体の各部への情報伝達には、
他に内分泌系、免疫系のルートがあります。

腸の内分泌系も様々な仕事をしています。
腸に入ってきた食物情報は精細に分析され、
その情報は前後の内臓(胃や大腸、直腸など)とともに、
脳にも送られます。
そして、次にその食物が入ってきたときにどう対処すればいいかを
脳に刻み込んでいきます。

こうしたホルモンの中で
最も重要な役割をはたしているのがセロトニンです。
このセロトニンが腸管には豊富(全身のセロトニンの90%)にあり、
腸の蠕動運動に関係していて、
セロトニンが過剰に分泌されると下痢をきたしやすく、
分泌が少ないと便秘がちになる様です。

こうしたセロトニンは、
食中毒の様な腸内微生物叢が撹乱された時や、
毒物を服用してしまった様な時に働いて
速やかにこうしたものを排出させる方向に働きます。

ところで、セロトニンにはもう一つ別の働きがあり、
中枢神経系においては、生体リズムや
睡眠・体温調節などの生理機能と、
感情的な情報をコントロールし精神を安定させる働きがあります。

ただ、セロトニンは血管脳関門を通過できないらしく、
腸で作られたセロトニンが直接脳に働くことはないそうです。

では、腸管神経系内で情報伝達に用いるシグナル物質と、
脳内で情報伝達に用いられるシグナル物質が、
同じセロトニンなのは、たまたまなのか、何か意味があるのか、
そこはまだ分かっていない様です。

ただ、先日も書きましたが、
腸管神経系から中枢神経系には迷走神経で連絡しています。
筆者は、脳の感情をコントロールする中枢に直に結合する
迷走神経の近くに、膨大なセロトニンが蓄えてあることを鑑みると、
何らかのセロトニン関連のシグナルが、
意識の背景をなす情動や感情に
影響しているはずだと考えています。
それが、おいしい料理を食べた後で、
満腹感や満足感を覚える理由なのだと。

一般的に「美味しい」というのは、嗅覚と味覚を中心に、
時に視覚や触覚も関与しながら味わう感覚です。

しかし、僕も知らなかったのですが、
最近の研究で、嗅覚レセプターや味覚レセプターは、
口内や鼻腔のみならず、消化管全体に分布していることが
わかってきたそうです。
こうしたレセプターはおもに内分泌細胞上に存在し、
各種のホルモンの分泌をコントロールしているのだとか。

ですので、「美味しかった」という記憶は、
単に鼻からのどにかけての感覚だけではなく、
消化管全体として感覚として記憶されるものなのです。

それは単に美味しかっただけでなく、というか本来は、
美味しいものがどこにあるかをしっかり覚えておいて
再び手に入れることができるようにするためであり、
さらにいえば、美味しくない物=身体に害のあるものを
二度と食べない様にするために
できあがってきたシステムなんだろうと思います。