本:ポリヴェーガル理論入門4 聴覚過敏

昨日に引き続き『ポリヴェーガル理論入門』について書いていきます。
本日は聴覚過敏について。

以前、聴覚過敏についての私見をブログに書いたことから、
当院にも時々遠方から聴覚過敏の患者さんがいらっしゃいます。
残念ながら、中々満足な結果を持って帰っていただけなくて、
心苦しく思っているので、
聴覚過敏に対して何かいいヒントがないかと思っていたところ、
今回の本には思いもかけず聴覚過敏について詳しく書かれてありました。

普段受診される患者さんにも下記の話が当てはまるかどうかは、
今のところわかりませんが、
参考にして今後の診療に生かせたらと思います。

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筆者のポージェス博士によれば、
自閉症やPTSDなどの患者さんには共通項があると言います。

その一つが聴覚過敏なんだそうです。
これは、特定の精神疾患にだけ見られるわけではなく、
抑うつや統合失調症などの方にもその傾向性がみられるそうです。

トラウマを持つ人を注意深く観察し、話を聴いてみると、
彼/彼女らは人が多いところに行くのを嫌がるそうです。
なぜなら、うるさいと感じるから。
その上、騒音の中で人の話を聞き取りとるのを苦手としています。
これは自閉症の人も同じようなことを言っているとのこと。

こうした聴覚過敏の人は、
音に対して敏感であるにもかかわらず、
人間の声を抽出し、理解することに対しては困難を抱えているのだそうです。
(これを聴覚パラドックスと呼ぶそうです。)

そして、こうした人は、聴覚過敏だけでなく、
表情で感情を表現するのが苦手で、
声に抑揚がなく韻律に乏しい傾向があるのだそうです。

なぜ、そうなるのかと言えば、聴覚過敏を持つ人というのは、
「身体が安全な場所にある」と感じていないということなんだそうです。
つまり、周囲の物音に聞き耳をたてている状態であり、
社会交流システムをオフにして、危険・警戒状態にいると言うのです。

人間は進化の過程で適応してきた結果、
捕食動物と関連付けられた低周波の音を聞き分ける能力を抑制することで、
社会交流システムをうまく発動させて社会生活を送っています。

ところが、PTSDやその他の精神疾患など持つ人は、
社会交流システム(聞き取る能力と表現する能力)を犠牲にして、
捕食動物が出す低周波数の音をよく聞き取れる状態に
チューニングされているのだそうです。

つまり、身体が「安全である」と感じている場合と、
「危険」を感じている場合で、
異なった周波数帯に耳がチューニングされていて、
「危険」を感じている時に聴覚過敏が生じる
ということなんだと思います。

↑周波数だけなのかボリュームに関してもなのかはわかりませんが、
昼間に聴いていた音量のまま、深夜にテレビをつけると、
音が大きすぎてびっくりすることがあります。
昼と夜でも聴覚のチューニングって変化しているのだろうと思います

ポージェス博士は、共同研究者と一緒に、
中耳吸音システム(MESAS)というものを開発して、
このチューニングがどのように行われるかを調べました。

その結果、中耳の筋肉が緊張し固くなっているときには、
鼓膜は硬くなり、高いピッチの柔らかい音が脳に届くのに対し、
鼓膜が緩んでいる時には、大きくて低い音が脳に届き、
高音は背景の雑音よってかき消されてしまうのだそうです。

ちょっと難しい話になりますが、
聴覚過敏を持つ人を対象とした予備的な研究では、
人の声の周波数帯、特に第二フォルマントと第三フォルマント
(声の音色を決める部分ですね)の周波数帯が吸収されにくい
つまり、聴覚過敏を持つ人は、低周波の音は吸収できるが、
いろいろな声を聞き分けるための高次のフォルマントは
吸収できなかったのだそうです。

つまり、中耳構造は、聴覚処理や聴覚過敏と、
行動障害などを含む社会交流システムの障害を
結びつけるカギなんだそうです。

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と、こんなことが書いてあり、
なるほどと思うことも多々あるのですが、
いくつかの疑問点も浮かんできました。
それについては、後日触れようと思います。

なお、聴覚過敏があるから、
即、PTSDだとか自閉症スペクトラムだとか、
そういうわけではないのでご注意ください。

ただ、聴覚過敏を引き起こす背景には、
身体が「安全」を感じていない状況があるのではないか、
これは考えてみる必要があるかなと思います。