聞こえの問題で受診される患者さんはたくさんいらっしゃいます。
そのうちの何割かは加齢性難聴の患者さんです。
加齢性難聴と診断をすると、
一般的には現代医学ではあまりできることがないとされています。
せいぜい「不自由を感じるようになったら補聴器をしましょう」
という提案をするくらい。
それではあまりに愛想がないし、患者さんもちょっと不服そう。
そこで、加齢性難聴のパンフレットを作ることにしました。
以下をたたき台にして作ってみようと思っています。
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加齢性難聴とは、加齢によって起こる難聴で、
「年齢以外に特別な原因がないもの」です。
加齢性難聴は誰でも起こる可能性があります。
進行の程度は個人差がありますが、
早いと30歳代後半から始まることもあるそうですが、
一般的に50歳頃からと思われます。
その後、65歳以上で25~40%、75歳以上で40~66%、
そして80歳を過ぎると80%を超えると言われています。
(参考:よくわかる聴覚障害 難聴と耳鳴のすべて,永井書店,p.203)
ただし、40歳前後で発症して進行が速い場合は遺伝性難聴の疑いがあります。
加齢性難聴の特徴:
1.通常は両方の高い周波数ほど聞こえない
2.小さな音は聞こえにくく、大きな音はうるさく感じる
3.微妙な聞き取りが難しくなる
4.早口の人の話が聞き取りにくくなる
加齢性難聴が進行してくると、危険を察知しにくかったり、
人とのコミュニケーションが悪くなるため、
孤立・不安・憂うつなどを生じやすくなり、
最終的に認知症も発症しやすくなります。
加齢性難聴の治療法には現在のところ有効なものはありません。
進行を少しでも遅くするために、
悪化させる原因を取り除いておく必要があります。
加齢性難聴を悪化させる原因として重要なのは血管の動脈硬化です。
糖尿病、高血圧、脂質異常症などがあれば積極的に改善しましょう。
さらに、ウォーキングなど有酸素運動を行うのもいいでしょう。
もし眠っているだけの聴こえの細胞があれば、
ひょっとすると少し聞こえがよくなる”かも”しれません。
その他、喫煙、過度な飲酒なども加齢性難聴を進行させる要因となります。
また、騒音下での生活や大きすぎる音量による音楽鑑賞は、
聴こえの細胞を疲弊させて難聴を進行させる原因になりますので控えましょう。
食生活においては、ビタミンC、E、B12などのビタミン群や、
EPAやDHA、α-リノレン酸などのω(オメガ)-3系不飽和脂肪酸
といった抗酸化剤と呼ばれる栄養素が動脈硬化に有効と言われており、
加齢性難聴の進行予防にも有効であると思われます。
動脈硬化と言えば、
脳の動脈硬化にも気をつけなければいけません。
聞こえが悪くなると内耳から脳へのインプットが減ってきます。
この状態で漫然と音を聞いていると
聴覚に関連する脳領域の刺激が少なくなり、
脳はだんだんと怠けようとします。
脳の聴覚領域の劣化という名の動脈硬化です。
こうなると、
「話しているのはわかるけど何と言っているのか聞き取れない」
という状態がひどくなってしまいます。
脳は何歳になっても活性化させることができます。
鳥の声や川のせせらぎの音など高周波成分を含んだ自然の音を、
「積極的に聴こうとすること」が大切です。
また、最近はコンピュータのソフトなどを使えば、
話し声の速さを調節することができるようになりました。
これで、1.4倍速程度に話し声を早めたものを聞くのも
脳の聴覚領域を鍛えるのに有効と思われます。
その他、人との会話や本の朗読なども
聴覚に関連する脳領域の活性化に役に立ちます。
楽器の演奏やカラオケなども有効ですが、
強大な音量のもとでの活動は逆効果ですのでご注意下さい。
蛇足:
難聴が進んできますと徐々に日常生活に支障が出てきます。
もし自分では日常生活に不自由なく過ごしていると思っているなら、
実は周囲の人がうまく合わしてくれているのに、
気づけなくなっているのかもしれません。
難聴が進行してきた場合は現在のところ最も有効なのは補聴器です。
補聴器は上で述べた「脳の聴覚領域の劣化」を予防してくれます。
ところが、
「補聴器は格好悪い」とか、
「補聴器は年寄りじみて見える」
と言って難色を示される方が結構いらっしゃいます。
実際には人は誰も補聴器をしていることをそれほど気にしていません。
それよりは、何回も聞き返したり、
聞こえているふりをしている方が他の人は気にします。
こうした、周囲の状況に気づけなくなっている人や、
自分のイメージを変えられない人というのは、
考え方が動脈硬化を起こしているとも言えます。
血管の動脈硬化、脳の動脈硬化だけでなく、
考え方の動脈硬化にも気をつけて
シニアライフを楽しくお過ごしください。