生体時計と健康や病気の話をするには、
「時間とは?」
「生命とは?」
「こころとは?」
といった哲学的な問題についても
考えていく必要があると大塚先生は書かれています。
時間とは何か?
この問題に対し、まずは古代ギリシア、
アウグスティヌス『告白』の一節を引用されています。
”過去についての現在とは「記憶」であり、
未来についての現在とは「期待」、
そして現在ついての現在は「直感的体験」である。”
そして、
時間の速さは、その時の感情によって自由自在に伸び縮みするのだと。
それは、こころの時計というものがあるからだと。
⇒確かに、楽しい時間はあっという間に過ぎていくのに対して、
退屈な授業、つまらない仕事をしなければならない時は
なかなか時間が過ぎません。
そして、こころの時計というのは加齢とともに早く進むのだそうです。
⇒確かに小学生のころは1年が長かったように思いますが、
最近はあっという間に1年が過ぎていく感じがします。
これは、加齢とともに神経細胞の処理能力が低下し、
信号を運ぶスピードが落ちてくる、
あるいは、からだの運動能力が落ちて、
同じ作業をしても時間がかかってしまうからなんだとか。
大塚先生は、いろいろなフィールドワークをされていて、
何が老化と関係するかといったこともいろいろと調査されました。
血圧、心電図所見、呼吸数、血中O2、コレステロール、肝臓、腎臓・・・
その中の一つに、「こころの時計の検査」というのがあるそうです。
これは、仰向けに寝て安静しした状態で、
こころの中で10秒間を7回計り、
正しく予測できたかどうかを調べるのだそうです。
3年間追跡調査を行ったところ、
この予測が正確にできた人ほど物忘れのチェック(MMSE検査)が
良好であったそうです。
生体時計の劣化が老化につながるという結果の一つでもあります。
では、こころとは何か?
木下清一郎『こころの起源』という本から引用。
”生物世界からこころの世界を開いたのは「記憶」である
人間は記憶を持つことで過去と現在の照合が可能になり、
それまで瞬間のみを生きてきた生物が
「時間」と「空間」を獲得することで進化してきた。”
そのことが、人類が地球を征服できた所以であると。
こころは人間のからだにある60兆個の細胞が、
互いにネットワークをつくることで作り上げたしくみだ
と先生は書かれています。
こころは、
細胞と細胞がネットワークをつくることではじめて生まれてくるもの。
だから、たとえ細胞のいくつかが死んだからと言って、
すぐさま人という個体の死にはならない。こころも残ります。
腸の粘膜細胞は1日か2日で死んでしまうそうです。
赤血球の寿命は約120日。
からだを構成する細胞は次々に死を迎えます。
それでも個体としての死ではありません。
数多くの細胞が互いに声をかけあいながら、
時間という手段を軸にして、新しい働きを作り出しています。
それが、リズムとこころなのだそうです。