後鼻漏7 仮性後鼻漏3 運動性後鼻漏感1

今日もひきつづき後鼻漏の話。

参考図書は、
『知られざる後鼻漏-鼻から始まるその不快感の正体』 呉孟達, 幻冬舎
です。

次に、運動性後鼻漏感の話です。

2)運動性(=非顕在性運動障害)=嚥下障害(咽頭残留)
以前、後鼻漏感というのは、
「スムーズにものが飲み込めていない状態の時に生じる」
とお話しました。

つまり、「飲み込む」という動作がスムーズに行われていない時にも、
嚥下物がのどに残留(咽頭残留)し、
のどの異物感、不快感、後鼻漏感が生じると考えるわけです。

脳梗塞などによる典型的な場合は、
誤嚥性肺炎や嚥下性気管支炎を生じますが、
それほどではない場合でも、
実は運動障害が軽いけれども起っている
と考えなければいけない場合があるそうで、
これを、非顕在性運動障害と呼ぶそうです。

「飲み込む(嚥下(えんげ)))」という動作は、
いくつもの行程がスムーズに行われて初めて成り立ちます。
①「嚥下が必要」という感覚が生じる
②「嚥下が必要」と脳に刺激が伝わる
③「嚥下せよ」と命令が大脳皮質で生じる
④大脳基底核と呼ばれるところで命令書が作られる
⑤嚥下の筋肉を動かす中枢(延髄)に具体的な指令が伝わる
⑥舌が持ち上がり上アゴにくっつく(口内への逆流を防止)
⑦軟口蓋(のどちんこ付近)がせり上がり鼻への逆流を防止
⑧気管に入らないようにフタ(喉頭蓋)が閉じる
⑨のどの関門(食道入口部)が開く
⑩声帯が閉まりさらに気管への逆流に備える
⑪食物が通過したら食道の筋肉が動き出し下方に搬入
⑫食道入口部がしまりのどに逆流してくるのを防止
と、まあざっとこんな過程で流れていきます。
この一連のパターンのどこかが狂うとスムーズに飲み込めなくなります

症状としては、
意図的、習性的に咳払いや
唾液の空飲み込み・吐き出し、といった行為を重ねるそうです。

原因
一般的に多いのは、加齢と脳梗塞
①多発性微小脳梗塞(ラクナ梗塞)
ラクナ梗塞はある程度歳をとると誰でも少しずつ出てくるもので、
ある程度の年齢の人がMRIを撮ればいくつかは見られます。
まあ、そうしたものがちょうど飲み込みに関係する場所に起ると、
「何となく調子が悪い」という程度の症状が出るのかもしれません。
このラクナ梗塞(症状が出る時点でラクナとは呼べないのかも)には、
食事に差し支えが出る食事嚥下型と、
食事は普通できますが、
唾液を飲み込む時に出る空嚥下障害型があるそうです。

②加齢
一つは筋力の低下のため。
一つは大脳基底核というところでのドーパミン産生細胞が減るため。
近年、「サルコペニア」という考え方が重要視されています。
全身の筋肉の量と運動能力の低下を言います。
30歳を過ぎると筋力は年間約0.5空1%のペースで減少するそうです。
65歳以上で一層加速され、80歳以上ではピークの50%以下になると。
こうした筋力の低下はのどの筋肉にも生じます。
このあたりのことは、
本:肺炎がいやなら、のどを鍛えなさい
本:フケ声がいやなら「声筋」を鍛えなさい
にも、関連することをちょこっと書きました。

③嚥下機能を悪化させる薬物
=ドーパミン阻害作用をもつ薬剤。
抗精神病薬、抗うつ薬、抗不安薬、睡眠薬など
また、こうした薬の常用によって、
特に夜間睡眠時の嚥下反射が低下するそうで、
⇒早朝起床時の口腔内分泌物増加、咽頭貯留の増加
その他、抗嘔吐剤、カルシウム拮抗薬、抗ヒスタミン剤なども影響。

診断
ビデオ嚥下内視鏡検査(VE)、ビデオ嚥下造影検査(VF)
CT・MRI(補助診断)など

治療
これは、嚥下機能回復訓練法、つまりリハビリが大切なんだと。
ただし、食事嚥下が障害されている人は、
無理な自己流の訓練は悪化させることもあるとのことで、
専門家に相談するようにと書かれています。
それに対して、空嚥下の障害タイプでは、
自分でできる嚥下機能回復訓練があります。

A)残った筋肉で嚥下の力を鍛える(間接訓練法)

・頭部挙上訓練(頸椎症や心疾患、血圧の上がりやすい人は不可)
・嚥下おでこ体操
・頸部等尺性収縮手技
・舌前方保持訓練
・ブローイング訓練
・氷なめ訓練

B)嚥下姿勢の調節(直接訓練法)

・頸部回旋法
・固形物と流動物を交互にとる方法
などがあります。
興味を持たれた方は、一度本をご覧ください(p.286-294)。

長くなったので続きは明日。