この本の帯には、
「めまいをめぐる時空の旅へ めまい平衡医学を解き明かす、
ちょっと変わった入門書ができました!」
と書いてあります。
確かに、めまいというものを理解する入門書とも、
言えないわけではありませんが、
もっとバックグラウンドを広くもつためのサブ教本的な感じです。
まったく平衡の生理を知らないと難しい部分もありますが、
少し知っている人間にとっては、
非常に面白い(と僕は思います)。
たとえば、
西洋・東洋、あるいはわが国において、
「めまい」あるいはめまいであろうと思われる記述として、
初めて歴史に記載があったのは
いつ頃、どんな書物であったかとか。
古くはローマ神話における
オウィディウスの『変身物語』の中の一節や
医学的にはカッパドキアのアレテウスの著作に
めまいの記載があるそうです。
東洋のめまいの源流は
『黄帝内経』に見ることができるそうです。
(これは(最初かどうかはともかく)僕も知っていました。)
わが国におけるめまいの最初記載は、
平安時代の『和名類聚抄』と呼ばれる書物であり、
眼振の記載は、平安末期から鎌倉初期に
書かれたとされる『病草子』という絵巻物らしい。
『和名類聚抄』は名前くらいは知っていましたが、
『病草子」というのは初めて知りました。
そのほか、この本には、めまい平衡医学が、
ファロッピオ、スカルパによって解剖学が開かれ、
生理学としては、フルーラン、ブロイアー、エヴァルド、トゥリオを経て、
バラニーのノーベル賞へと続く歴史や、
めまいの代名詞メニエールのことも書かれています。
といっても、単に歴史だけが書かれているのではなく、
そうした知見をもとに現在のVEMPなどの最新の検査のことや、
メニエール病や良性発作性頭位めまい症、
前庭神経炎から上半規管裂隙症候群の話まで網羅してあります。
そして最後に、
文学・芸術作品にも言及されています。
特に、ヒッチコックの『めまいvertigo』の話や、
ゴッホの作品とその生涯とめまいの関連などは、
非常に面白いと思います。
まあ、一般向けの本ではありませんが、
めまいを特に専門にやっている人、
これから専門にやろうとしている人にとっては、
自分のバックグラウンドを広く、深くさせるためには、
一読しておくといい本だと思います。