先日の土曜日、大阪で開催された、
ツムラさんの講演会に出かけてきました。
125周年続いている企業とは凄いですね。
シンポジウムのテーマは、
「高齢者医療の課題に対する漢方薬の役割」
超高齢社会に入った日本において、
健康寿命をできるだけ長くして、健やかな老後を過ごすことは、
危急の課題となっています。
フレイル、ロコモティブシンドローム、サルコペニア、
(この3つの違いが、今ひとつ分かっていませんが(汗))
要は、筋力が衰えて虚弱になり
社会的活動も制限される状態と考えられます。
そして、さらに不安やうつや、意欲低下など、
心理的フレイルと呼ばれる状態も問題になってきます。
これに対して、漢方の役割に期待が集まっています。
たとえば人参養栄湯(108)
フレイルの患者さんはうつを合併する可能性が高い。
焦燥感を訴える患者さんが多い。
直接症状を取る薬よりも、
まずは体力を改善する方がうまくいく場合がある。
たとえば、牛車腎気丸(107)
腎虚と呼ばれる状態に対する処方ですが、
筋肉の萎縮に対する効果が実証されており、
握力も強くなるそうです。
たとえば補中益気湯(41)
12世紀に李東垣によって書かれた『内外傷弁惑論』に
でてくる処方で、感染症の予防にも効果があるそうです。
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特別講演は、システム・バイオロジー研究機構会長、
ソニーコンピュータサイエンス研究所社長の北野宏明先生。
演題は、「システムバイオロジーと漢方」
ここ数十年、生化学、分子生物学、細胞生物学や、
生理学、遺伝学などで膨大な発見がなされてきました。
その論文は年間に何万にも渡る膨大な量です。
システムバイオロジーでは、これらの膨大な発見をもとに、
生命を統合されたシステムとしてとらえる学問だそうです。
そこには、近年急速に発達してきたAIが用いられます。
つまり、1個の遺伝子、1個の酵素の働きはわかったけど、
それが生命を維持するのにどのように働いているか、
というのは、今まで、すごく複雑すぎてわからなかったのですが、
AIの出現によって、そのダイナミックな動きが
明らかにされつつあるということらしいのです。
僕がもともと医学部を目指したのは、
分子生物学や遺伝子工学に興味を持ったことからでした。
しかし、生命現象における1個1個の反応にかかわる
酵素や遺伝子を探していくという方法論が、
あまりに分析的な方向であったため、
学生の時、何か違うなぁ、という思いがありました。
もちろん、そうした地道な研究が世界中でなされてきたおかげで、
今日ようやく統合的な考え方が花開いてきたわけですし、
講師の先生も、基本にあるのは一つ一つの研究であると
おっしゃられていました。
ただ、学生時代の僕は、
研究者で食べていくということに対して、
自分にはそんな能力はないのではないかとか、
食べていけるのかという不安もあり、
さらに、まあ、おそらく、
このまま進めばとりあえず医者になれるという打算も
どこかにあったりして、そんな言い訳をして、結局、
基礎医学の道には進まなかったのだと思います。
ま、それはともかく、
生命が恒常性を維持するために行っている現象は、
遺伝子の発現、タンパク質への転写、酵素として働きなどが、
膨大な量で起っているわけです。
それを明らかにしていくのがシステムバイオロジーなのだと。
そして、それがわかれば、
漢方薬のようなたくさんの成分を含んだものも、
どのように働くかがわかってくるだろうし、
今後の医学の発展につながるということです。
これはすごいことです。
参考HP:一般的なシステムバイオロジーの概念とは?