いろいろと臨床医学の講義や実習を重ねるうちに、
自分が何科の医師になるかだんだんと絞り込まれていきました。
最終的に最も興味をもったのが耳鼻咽喉科でしたが、
一つ迷いがありました。
父が膵臓がんで亡くなっていたこともあり、
膵臓に関係する分野にも興味がありました。
いわば「弔い合戦」です。
内科で膵臓をやるという選択肢もあったのですが、
当時、というか今でも、
多少変わってきているかもしれませんが、
がんは基本的には手術で取り除くのがメインとなります。
そうなると腹部外科です。
まあ、今思えば、
自分は外科的な人間ではないなと思うのですが、
当時はそんなことは全く考えていませんでした。
腹部外科にするか、耳鼻咽喉科にするか。
これが、まず一つの大きな選択でした。
そして、それとは別に、
卒業後の進路に関してもう一つの選択が迫られていました。
卒業後、どこで研修をするか。
母校の高知医大に残るか、
滋賀県か、あるいはその近隣に戻って研修をうけるという選択。
母校に残った場合、
自分が専攻する科目以外のことで不明なことがでてきたら、
同級生にすぐに尋ねることができるというメリットがあります。
色んな事が全くのゼロからの出発ではないので、
ちょっと気が楽です。
しかし、僕としては、田舎に母親を残しており、
できれば滋賀に戻りたいとも考えていました。
また、大学病院で研修をするか、
一般病院で研修をするかという選択。
今は大きな総合病院に直接就職して
研修するというのもかなり多くなったようですが、
僕が大学を卒業する頃は、
大学の医局に入局して研修を受ける方が一般的でした。
しかし、大きな総合病院でいくつかの科で研修して
最後に自分の専攻する科に行くというローテート研修というのも
少し惹かれるところがありました。
現在は2年間のローテートの研修が義務づけられていますが、
当時はまだなく、大学病院は各医局の独立性も強く、
ローテート研修はほとんどなく、
自分が決めた医局に入局してストレート研修を行う場合の方が
多かったと思います。
医師の免許をもらっても、
たとえば、自分の専門分野が耳鼻咽喉科になった場合に、
耳鼻科のことはできても、
内科的なことが全くわからない医者になってしまうのではないか。
そういう心配も少しありました。
だから最初はローテートの方がいいのではないか・・・
まあ、そのあたりのことは、
医局の入局説明会の時に、先輩医師が、
「入院患者さんを受け持つようになったら、
患者さんの全身的なことも
理解しておかなければいけないわけで、
その患者さんが胃潰瘍を持っていれば、
必然的に胃潰瘍のことも勉強するようになるよ。」
と言われ、なんとなくそんなものかと安心しました。
まあ、実際には、そんな簡単なことではないですが、
それでも、いくらかはそうして医学生よりはもう少し高度な
医学的基礎知識が増えていったのも事実です。
まあ、そんなわけで、
とりあえず、耳鼻咽喉科か腹部外科を
大学病院で研修するというところまで絞り込むことができました。