本:老人の極意2

この本は30話書き下ろし作品ということで、
30名の年輪を重ねられた人々の話が書かれてあります。

著者は1940年生まれですので、現在76歳。
この本が昨年10月に出版されたのですから、
書かれたのは74,5歳くらいなのでしょうか?

全編にわたって瑞々しい感性で話が進んでいきます。
書かれたのは最近ですが、
実際にすごい老人を目の当たりされたのは、
30年以上前の話も出てきます。

例えば、自分が同じ様にこうした老人の話がかけるかと言えば、
全く思いつきもしません。
人間に対する観察眼の違いというものを強く感じました。
まあ、そりゃ、有名な作家と比べること自体おこがましいのですけど。

さて、そんな中で、ちょっとだけ気に入った話を。

第4話 西洋と東洋を居眠りで超える
イスタンブールの渡しの連絡船で居眠りしつづけた老人の話。
その老人は、連絡船のデッキで居眠りをしていたのだが、
その見事な居眠りの姿に、周囲の人はみんな声をかけることもせず、
ずっと眺めているだけだった。

第8話 怪しい老紳士、ローマの謎かけ
ローマのハリーズ・バーで出会った老紳士のシチリアの話。
その老紳士、筆者達に向かって、
「イタリア人がシチリア島について神に願う、
三つのお願いというジョークがあるんだが、聞きたいかね」
と言って、話し出した。

第26話 幸田文さんの千代紙マッチ箱の話
著者が編集者をしていたころ、幸田邸に通っていた時に、
ふと千代紙でできたマッチ箱に目が留まった。
訪問の際にはそれをいただいて帰っていたのだが、
ある日、いつもの様にマッチ箱を手に取ったら、
指先にいつもと違う感覚が・・・

第29話 リンゴの栄養は皮と身の間にある
著者がまだ小さかった頃はリンゴはハレの日の果物だった。
リンゴが食べられる日には、筆者のお祖母さんは必ず言ったという。
「リンゴの栄養は。皮と身の間にあるだから、丸ごとかじるだよ、丸ごと」
”身と皮の間”って、よく考えたら存在しない!
そこに栄養があるという祖母の真意は・・・

どれも面白いです。
そして、最後に。
これは、面白い、というより、よくぞ言ってくれた!みたいな。

第9話 御茶人と補聴器
かねてから筆者は友人から補聴器について、
「周囲の音が一緒くたになって耳にひびくんだ」
「だから人間の耳は精密機械みたいなもので、
ちゃんと感謝の念をもたなきゃいけないよ」
みたいな”負の悟り”を、聞かされていた。

あるとき、表千家の御茶人として有名な先生が、
補聴器をされているのを知って、
この”負の悟り”について尋ねてみたそうな。
すると、その先生曰く、(以下抜粋)

あのね、赤ん坊は生まれてしばらくは音の洪水のなかに存在しているわけですよね。(中略)
もちろん、音の選別などできやしないから、赤ん坊は非常にエネルギーを消費する。しかし、そのうちに音を選択してですね、親の声や他人の声、動物の声や車の音、雑音や車の音などを聴き分けるようになる。(中略)
ですから、耳が遠くなって補聴器をつけた人は、最初は赤ん坊と同じ状態になっているわけですね。(中略)だから、そこで音を取捨選択できないから補聴器の限界だと立ち止まってしまうのは、赤ん坊のまま成長しないのと同じなんでね。赤ん坊でさえ、そこから音を聴き分けることを学習して成長するんだから、大人にできないわけがない(以下略)(p.58-59)

まあ、実は赤ん坊だからできるということもあるのでしょうが。

実際には補聴器をかける方というのは、
メガネをかけるのと同じ様な感覚でかけ始められます。
その結果、「ワンワン響いて使えない」と言われます。
慣れが必要で、一山越えると使えるのですが、
それをせずに「補聴器は使えない」と
止められてしまう方がたくさんいらっしゃいます。
残念なことです。