さて、おおよそ3,4年で基礎医学を学ぶのも終わりとなります。
もともとの医学部入学の動機が、
”分子生物学、遺伝子工学を学びたい”というものだったのですが、
そこは熱しやすくて冷めやすい性格なもので、
教養の生物学、基礎の医化学のあたりをちょこっと学んだら、
なんとなく少し満足していました。
そこに、次に興味深い学問が目の前に現れてきました。
免疫学です。
当時、リンパ球にヘルパーT細胞や、
サプレッサーT細胞などがあることがわかり、
免疫学がにわかに脚光を浴びてきた時期でした。
高知医科大学(現、高知大学医学部)は
僕でまだ4期生ということもあり、
新設医科大学の中でも特に新しい方の大学で、
講座として免疫学が設立されていたのも
当時としては珍しいことでした。
免疫学に興味を持ったのは、
一つには新しい学問であったこと。
そして、やはり父を癌で亡くしたことで、
何かそれまでの治療とは異なる、
新しい治療法がそこにあるのではないか
との思いがあったのでした。
そこで、授業の内容ではちょっともの足らない所を、
お話を聴きに免疫学教室まで行きました。
当時、藤本教授と山元助教授には、
免疫学の基礎として抑えるべき論文をいくつか紹介していただき、
勉強させていただきました。
ちょうどその頃、免疫学教室では、
癌治療に対する養子免疫療法について
研究を始められていた時でした。
患者さんから摘出された組織からがん細胞を取り出し、
そこから得られる抗原を、
やはり患者さんから採血して集めたリンパ球に触れさせると、
癌細胞を攻撃するリンパ球ができるので、
それを培養して増やして患者さんに戻します。
そうしたら、癌細胞が身体に残っていたとしても、
身体の免疫がやっつけてくれるわけです。
理論的にはすごく理想的な治療だと思います。
しかし、残念ながら、現在のところ、
まだ抗がん剤治療を越える普及には至っていません。
おそらく、実際に患者さんに治療を行うとなると、
越えなければならないハードルがたくさんあるのだと思います。
それは、抗原を認識するためのカギのような
論理的に解明しなければならない様なことが
まだまだたくさんあったりとか、
リンパ球を増やすのに技術的な難しさがあったりとか、
そもそもがん免疫が弱い人が癌になるわけで、
免疫細胞を取り出しても
うまく働かないといった問題もあるのでしょう。
また、臨床応用ができるようになったとしても、
コストの問題などもあったのだろうと思います。
それでも、インターネットで検索してみると、
色々な情報がでてきており、
臨床的に治療がようやく進んできたなと感じています。
※このシリーズの以前のものを読んでいただける方は、
左の帯の下の方に検索欄がありますので、そこに、
「なるまで」と入れて検索してください。