本:五感の音楽 

otonai今年の春、東京神保町の古本屋街を散策した時、
最近「五感」にアンテナが向いている
ことから見つけた本。

『五感の音楽 -音のない音楽への扉-』 佐藤慶子 著、 ヤマハミュージックメディア

作者の佐藤慶子さんは、作曲家でもあり、
「五感の音楽」を提唱し、
総合的なマルチメディアアートを、
国内外で展開されていらっしゃるそうです。

2002年に刊行された本で、少し古いのですが、
ちょっと面白い本でした。

筆者は、聾の方とも積極的に音楽を通じてコラボレーションされています。
この本の冒頭に、面白いエピソードが書いてありました。

ある日、若手の能楽師による鼓と、韓国の水墨画作家と、
筆者の友人でもある聾者のハンドパフォーマーが
コラボした公演を見に行った時のこと。

聾の人も音楽を楽しむということにつていは、
太鼓の様な低周波の音を身体で感じるであろう
ということは想像できたらしいのですが、
はたして鼓のような高周波の音がわかるのだろうかと、
気になってその友人に公演はどうだったかと尋ねたそうです。

そうしたら、その友人が言うには、すごくよかったと。
なぜわかるのかというと、「まつ毛に響いたから」だそうなのです。

それを聴いてびっくりした。
「まつ毛で音楽を聴く」
ということなど、考えたこともなかったのだと。
音楽を聴覚以外の感覚器官でとらえる・・・
それが一体どんな音楽なのか。
その疑問を解くために、
音のない世界の扉を叩くことにしたのだそうです。

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そのほか、本の中で面白いなと思った部分がいくつかあります。

ポツポツ、ザーザー、サーサー、ポトポト・・・などなど。
日本語には、こうした雨の音を表現する言葉があるけれど、
ある日、筆者の仕事にボランティアで来ていた女性が、
それは雨の音ではないのではないかと言います。

つまり、雨が地面に当たって起こる音だから、
雨の音ではなくて大地の音だというのです。

「サーサー、雨が歌ってる」
「サーサー、大地が歌ってる」
両方とも成り立つわけで、物の見かたを教えられたようだと。

もう一つ面白いなと思ったのが、
宇宙に行ったら、空気がないから振動が伝わらない。
そのため宇宙では音がしないということ。
まあ、地響きなどは感じるのでしょうが。
そして、音のない世界では、
健聴者と聾者の立場が逆転するということ。

そんなことは考えたことがありませんでした。
そのことを嫁さんに話したら、
聴覚と視覚の違いはあるけど、
健常者とハンディキャップを持った人の立場が逆転するという意味では
ちょっと関連のあるような話が映画になってるよと教えてくれました。

『ブラインドネス』
ある日、急に目が見えなくなる奇病が蔓延すると、
目が見えていた者ともともと見えていなかった者の間で立場が逆転し・・・

調べてみると、
ノーベル文学賞作家ジョゼ・サラマーゴの小説を
映画化したものだそうですね。
映画の批評は賛否両論の様ですが。
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話がそれてしまいましたが、
聾者にも音楽があるということを、
僕は聴覚に関わる人間ではありますが、
恥ずかしながらほとんど考えたことがありませんでした。

おりしも、現在『リッスン』という映画が全国で順次公開されています。
http://www.uplink.co.jp/listen/index.php
”「聾者(ろう者)の音楽」を視覚的に表現した
アート・ドキュメンタリー、無音の58分間”

まあ、それも、この本についてブログで書こうと思って
下調べをしていて偶然見つけたのですが。
時間があれば観てみようと思っています。