解剖学の実習は前に書いた様に、
ホルマリンの臭いには困ったものでしたが、
実習そのものは楽しいものでした。
まあ、実習というものは、大概楽しいものです。
ただ、解剖学の場合、
身体の各部の名称とその機能をひたすら覚えなければなりません。
今はどうか知りませんが、
僕が習った頃は、身体の名称を日本語はもちろん、
基本的にはラテン語でも覚えなければなりませんでした。
このラテン語というのが馴染みのないので、 中々頭に入ってきません。
ムスクルス・ステルノクライドマストイデウスなんて、
ほとんどお経みたいでしょ!
因みに、この長ったらしい言葉は
胸鎖乳突筋という首の両側を上下に走る太い筋肉の名前です。
まあ、こうしたものは闇雲に覚えなくても、
構成要素を一つ一つ覚えていれば
だんだんひとりでに覚えられてくるみたいなのですが。
つまり、上の胸鎖乳突筋を例にとれば、
この筋肉は胸骨という胸の骨と、
鎖骨から乳様突起という耳の後ろの硬い骨にまで走る筋肉なので、
胸骨がSternum、鎖骨がClavicular(Clavicle)、乳様突起がmastoid、を
覚えればなんとなく覚えてしまうものなのです・・・
って、そっちの方が大変か。
いずれにしても、ラテン語の場合語尾がややこしいので、
英語で十分だと思います。
そういえば昔、ある教授が言ってました。
戦前や戦中の日本では、医療を担う医師には、
大学の医学部を卒業した者と、
それ以外に医専と呼ばれる教育機関を卒業した者がいたそうです。
後者は、医師不足を補うために作られた制度で、
大学を卒業するよりも短期間で医師になることができました。
この、大学を卒業した医師と医専を卒業した医師とは、
少し話をしていたらすぐにわかると。
医専出身の医師は
テクニカルターム(英語やラテン語ですね)で話をしないと。
もちろん医療に対する態度は、
大学を卒業した医師でも、医専を卒業した医師でも、
それほど大きな変わりはなかっただろうと思いますが、
「皆さんには世界に通じる医師になって欲しい。
そのためには、きちんとテクニカルタームで話せる様にしなさい」
と、その教授はお話されたのを覚えています。