僕が医師になるまで13

解剖学の実習は前に書いた様に、
ホルマリンの臭いには困ったものでしたが、
実習そのものは楽しいものでした。

まあ、実習というものは、大概楽しいものです。
ただ、解剖学の場合、
身体の各部の名称とその機能をひたすら覚えなければなりません。

今はどうか知りませんが、
僕が習った頃は、身体の名称を日本語はもちろん、
基本的にはラテン語でも覚えなければなりませんでした。
このラテン語というのが馴染みのないので、 中々頭に入ってきません。
ムスクルス・ステルノクライドマストイデウスなんて、
ほとんどお経みたいでしょ!
因みに、この長ったらしい言葉は
胸鎖乳突筋という首の両側を上下に走る太い筋肉の名前です。

まあ、こうしたものは闇雲に覚えなくても、
構成要素を一つ一つ覚えていれば
だんだんひとりでに覚えられてくるみたいなのですが。

つまり、上の胸鎖乳突筋を例にとれば、
この筋肉は胸骨という胸の骨と、
鎖骨から乳様突起という耳の後ろの硬い骨にまで走る筋肉なので、
胸骨がSternum、鎖骨がClavicular(Clavicle)、乳様突起がmastoid、を
覚えればなんとなく覚えてしまうものなのです・・・
って、そっちの方が大変か。

いずれにしても、ラテン語の場合語尾がややこしいので、
英語で十分だと思います。

そういえば昔、ある教授が言ってました。

戦前や戦中の日本では、医療を担う医師には、
大学の医学部を卒業した者と、
それ以外に医専と呼ばれる教育機関を卒業した者がいたそうです。
後者は、医師不足を補うために作られた制度で、
大学を卒業するよりも短期間で医師になることができました。

この、大学を卒業した医師と医専を卒業した医師とは、
少し話をしていたらすぐにわかると。
医専出身の医師は
テクニカルターム(英語やラテン語ですね)で話をしないと。

もちろん医療に対する態度は、
大学を卒業した医師でも、医専を卒業した医師でも、
それほど大きな変わりはなかっただろうと思いますが、
「皆さんには世界に通じる医師になって欲しい。
そのためには、きちんとテクニカルタームで話せる様にしなさい」
と、その教授はお話されたのを覚えています。