最近久しぶりに小説を読みました。
「これ、あなた好みだと思うわ」と、うちの嫁さんが言うので、
忙しいのになと内心思いつつ読んでみることにしました。
高校2年生の主人公が、
ある日学校でピアノの調律をするところに出会い、
自分も調律師の道を歩みだす。
幼いころからピアノを弾いていたわけでもなく、
素質も才能も特に持ち合わせていないと
自覚する主人公。
それでも、「いい音を出したい」
「そのピアノの最高の音をひきだしたい」
そんな思いで努力したり、
先輩調律師の作業を熱心に観察したりしながら
成長していく様子が描かれています。
この本の帯に、推薦の言葉が書かれています。
「村上春樹のドライさと湿り気、小川洋子の明るさと不穏。
二人の選考作家の魅力を併せ持った作品です。」
2人の著書をたくさん読んでいるわけではありませんが、
なんとなく雰囲気はわかります。
僕は耳鼻咽喉科医だからか、
あるいは、最近「聴覚」ということに興味をもっているせいか、
この小説の中での音や音楽に対する表現というかとらえ方にひかれます。
また、主人公や、彼をとりまく周りの先輩調律師の
仕事に対する取り組み方には
プロとしての仕事への取り組み方について考えさせられます。
特別話が展開するわけでもなく(そこが小川洋子風なのかも)
すごく嫌な人物が登場するでもなく、
話は淡々と進んでいくのですが、
読み終えたあとには、何となく清涼感を感じるのは
主人公が色々と考えながら成長してくるのを実感できるからかもしれません。
それにしても、音や雰囲気という目に見えない者を言葉で綴るというのは
中々難しいものです。
ニオイや香りを表現するソムリエとも通じるものがあるかもしれません。