漢方処方の決め方

先日の土曜日、久しぶりに漢方のセミナーに行ってきました。

講師は先日の日本東洋医学会学術総会の会頭をつとめられた三谷和男先生。
三谷先生の講義は以前にも何回か聴いたことがあり楽しみにしていました。

京滋漢方ステップアップセミナー:
演題は『精度を高めたい先生方へ ~漢方医学の診断~』

3回シリーズで、今回は初回で概ね総論的なお話でした。
今回そこでお聞きしたことからふくらませてお話します。

漢方は、望診(ぼう)・聞診(ぶん)・問診(もん)・切診(せつ)
と言う四診を駆使して,患者さんの状態を把握します。
この患者さんの状態は「証」と呼ばれ、
それはそのままその患者さんを治療する処方の決定に結びつきます。
これを「方証相対」と呼びますが、
この「証」を決定する方法(根拠)については、
大きく5つに分けられるとのこと。
1)古典
2)先人の口訣
3)師の指導
4)中医学的な病理観
そして、これらに加えて
5)西洋医学的な考察
これも、ありかなと思うとのことでした。

漢方あるいは東洋医学と言っても結構流派があります。
どの先生に従事して学ぶかによっても
漢方処方の決定手順は異なります。

僕は学生の時に当時の薬理の先生が漢方に詳しくて、
基本的なことを教えていただきましたが、
あとは我流なもので、あまり系統的な考え方、
つまり気・血・水や陰陽・虚実・表裏といった考え方で
漢方処方を導くというのが苦手です。
なら、五行説で現象を考察できるかと言うとそれも苦手。
どちらかと言うと口訣中心かもしれません。
・・・ま、いつまでもそれでは困るのですが。

そんな中、西洋医学的な考察というのは、
比較的僕の中ではなじみのある考え方です。

たとえば、メニエール病は内耳がむくんだ状態で
内リンパ水腫と呼ばれる病態で、
イソソルビドという利尿剤を治療に用いますが、
味が苦いので苦手な人も結構いらっしゃいます。
そういう時は五苓散を代用しますし、
天気で低気圧が来る時に調子が悪くなる人の場合は、
むしろ五苓散の方を優先する場合もあります。

むくむということでは、耳管狭窄症という病気の場合、
耳と鼻の奥をつなぐ耳管の粘膜が腫れることで生じますので、
こういう場合にも五苓散を用いる場合があります。
耳管狭窄症の場合はさらに炎症が関連する場合も多く、
その場合は抗炎症作用の強い小柴胡湯と五苓散を
合わせた柴苓湯を用いています。

他にも、上咽頭炎に対する治療に、
上咽頭擦過療法(EAT療法)に加えて、
当科では漢方をよく用いますが、
この時漢方に何を選ぶかの考え方として、
一つは上咽頭の炎症を起こす場所は、
アデノイド(咽頭扁桃)が多いので、
扁桃腺で用いる処方(たとえば小柴胡湯加桔梗石膏)を
使ってみることがあります。
あるいは、後鼻漏・後鼻漏感であれば、
副鼻腔炎の時に用いる処方(たとえば辛夷清肺湯)を
服用してみてもらうこともあります。

こうした薬剤の選び方は、
本来の伝統的な漢方の処方の決め方とは異なりますが、
それでも効くときは効きます。
・・・が、効かない場合もあります。その時どうするか。
一つはもっと別の病態が考えられないかを検討します。

たとえば上咽頭炎の場合、最近考えているのが、
逆流性食道炎(正確には胃酸咽頭逆流症)が関与しているのではないか。
寝ている間に胃酸が咽頭にまで
上がってきているのではないかということです。
咽喉頭異常感症(のどがつまる感じ)の患者さんでは結構いらっしゃいます。
この胃酸の逆流が上咽頭にまできていないかと考える訳です。
このとき、鼻からカメラを入れる検査の所見が参考になります。
もしそうであれば、
西洋医学的にはPPIとかP-CABと呼ばれる種類の薬剤を考えるわけですが、
僕は漢方推しなので、そこは、
茯苓飲合半夏厚朴湯と呼ばれる処方をよく使います。
これでうまくいく場合もあるし、やっぱり難しい場合もあります。

西洋医学的な病態を念頭に漢方を用いてもうまくいかない場合は、
やっぱり基本に戻って漢方的診断が必要なのかもしれません。
脈を診たり(僕はこれが一番苦手なのですが)、
舌を診たり、お腹を触って診たり。
あれこれ使えるものを全部駆使して処方を決めているのが現状です。